スイスのサーベイランスネットワークにおける黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による手術部位感染症の経時的傾向および疫学:コホート研究★

2018.02.28

Temporal trends and epidemiology of Staphylococcus aureus surgical site infection in the Swiss surveillance network: a cohort study


M. Abbas*, E. Aghayev, N. Troillet, M.-C. Eisenring, S.P. Kuster, A.F. Widmer, S. Harbarth; SwissNoso
*Geneva University Hospitals, Switzerland
Journal of Hospital Infection (2018) 98, 118-126
背景
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、手術部位感染症(SSI)の主要病原体である。
目的
黄色ブドウ球菌による SSI の傾向およびリスク因子を検討すること。
方法
黄色ブドウ球菌単独による SSI のリスク因子を、多変量ロジスティック回帰を用いて、スイスの多施設 SSI サーベイランスシステムから特定した。院内および退院後の SSI を、標準化した定義を用いて特定した。
結果
6 年間にわたり、外科患者 229,765 例についてデータを収集し、このうち 499 例(0.22%)が 黄色ブドウ球菌単独による SSI を発症した。459 例(92.0%)および 40 例(8.0%)では、それぞれメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(meticillin-sensitive Staphylococcus aureus;MSSA)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が原因であった。MSSA による SSI の発生率は低下したが(P = 0.007)、 MRSA による SSI の発生率は低下しなかった(P = 0.70)。黄色ブドウ球菌による SSI の独立予測因子は、高齢(75 歳以上対 50 歳未満、オッズ比[OR]0.60、95%信頼区間[CI]0.44 ~ 0.83)、腹腔鏡検査/最小侵襲手術(OR 0.68、95%CI 0.50 ~ 0.92)、非清浄手術(OR 0.78[創汚染分類の増加あたり]、95%CI 0.64 ~ 0.94)および術前抗菌薬予防投与の正確なタイミング(OR 0.80、95%CI 0.65 ~ 0.98)であった。独立リスク因子は、男性(OR 1.38、95%CI 1.14 ~ 1.66)、American Society of Anesthesiologistsスコア高値(1 点の増加あたり:OR 1.30、95%CI 1.13 ~ 1.51)、非感染性の理由による再手術(OR 4.59、95%CI 3.59 ~ 5.87)および手術の種類であり、心臓手術、椎弓切除術、ならびに股関節および膝関節形成術では、黄色ブドウ球菌による SSI の オッズが他の手術よりも 2 ~ 9 倍高かった。
結論
スイスにおいて、黄色ブドウ球菌による SSI は減少しつつあり、稀なイベントとなりつつある。具体的な予防策が有益となり得る高リスク処置が特定された。残念ながら、多くの独立リスク因子は容易には変更できない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
黄色ブドウ球菌による手術部位感染症のリスク因子が高い術式においては、術前の鼻腔MRSA 監視培養の実施が検討されるべきであろう。

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