ヒト感染症で耐性をもたらす遺伝物質の産生源としての医療環境における ESBL 産生グラム陰性菌
ESBL-producing Gram-negative organisms in the healthcare environment as a source of genetic material for resistance in human infections
M. Muzslay*, G. Moore, N. Alhussaini, A.P.R. Wilson
*University College London Hospitals NHS Foundation Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2017) 95, 59-64
背景
確立された感染制御ガイドラインがあるにもかかわらず、医療環境および市中における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科細菌の検出率が上昇していることは、これらの微生物が環境内における持続的な生存を可能にする生存戦略を有している可能性を示唆している。
目的
様々な病棟環境において流行している ESBL 産生種の範囲およびばらつきを明らかにすること、ならびにセファロスポリン耐性が環境分離株からヒト病原菌へ伝達される可能性について検討すること。
方法
通常の微生物学的方法を用いて、ESBL 産生菌を調べるために環境表面から1,436 個の試料を採取した。ESBL 産生菌の環境分離株をドナーとし、ストレプトマイシン耐性大腸菌(Escherichia coli)(NCTC 50237)をレシピエントとして用いて、接合伝達性試験(broth mating法)を行った。
結果
アウトブレイクが発生していない環境の表面上における ESBL 産生菌の検出率は低かった(1,436 個中 45 個、3.1%)。汚染された割合が最も高かった場所は、洗面台の排水管(105 個中 28 個、26.7%)および床(160 個中 14 個、8.8%)であった。59 株の ESBL 産生菌が分離された。これらのうち、クレブシエラ(Klebsiella)属菌(33.9%)、エンテロバクター(Enterobacter)属菌(20.3%)、パントエア(Pantoea)属菌(15.3%)およびシトロバクター(Citrobacter)属菌(13.6%)が、頻度の高い分離株であった。ESBL の決定遺伝物質は、3 種類の代表的な環境分離株(Pantoea calida、クレブシエラ・オキシトカ[Klebsiella oxytoca]、ラウルテラ・オルニチノリティカ[Raoultella ornithinolytica])からヒト病原性大腸菌に伝達することができた。
結論
病棟において何らかの ESBL 株による感染がないにもかかわらず、病院環境から ESBL 産生グラム陰性分離株が回収された。洗面台の排水管は、多剤耐性細菌および薬物耐性遺伝子の長期リザーバの可能性があると考えるべきである。これらの遺伝子は、耐久性の強い環境微生物の様々な属に存在し、より一般的なヒト病原菌にとって ESBL の伝播源となる可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
環境中に存在する ESBL 産生菌の遺伝子がヒト病原性大腸菌に接合伝達することを示した論文である。本論文では洗面台の配水管を菌だけでなく耐性遺伝子のリザーバーとして問題提起している。
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