病院内で起こることは病院内に留まらない:病院廃水システム内の抗菌薬耐性菌★
What happens in hospitals does not stay in hospitals: antibiotic-resistant bacteria in hospital wastewater systems
D. Hocquet*, A. Muller, X. Bertrand
*Centre Hospitalier Régional Universitaire, France
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 395-402
病院は、抗菌薬耐性菌のホットスポットであり、その出現および拡散に主要な役割を果たしている。これら大量の抗菌薬耐性菌は、廃水システムを介して病院から放出される。本総説では、病院廃水中の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌(Escherichia coli)、バンコマイシン耐性腸球菌(enterococci)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の定量的および定性的データを提示し、市中廃水と比較する。これらの抗菌薬耐性菌が廃水処理場と下流の環境において最終的にどのようになるのかも考察する。発表された研究から病院廃水に抗菌薬耐性菌が含まれていることが示されており、これらの菌から生じる負荷はその地域の有病率に左右される。廃水中に廃棄される大量の抗菌薬は継続的な選択圧をかける。病院廃水が、地方自治体の廃水処理場で処理を受けるために廃水本流に注ぐ前に一次処理をするよう推奨している国はごくわずかである。確実なデータはないが、一部の研究から、処理が抗菌薬耐性菌、特に ESBL 産生大腸菌に有利に働く場合があり得ることが示唆されている。さらに、処理場は、細菌種間で抗菌薬耐性遺伝子が移動するホットスポットといわれている。その結果、大量の抗菌薬耐性菌が環境中に放出されるが、この放出がこれら病原体の世界的疫学に寄与しているかどうかは不明である。それでも、世界的に進行する抗菌薬耐性に何らかの役割を果たしていると仮定するのは理にかなっている。抗菌薬耐性はいまや「環境汚染物質」とみなすべきで、新たな廃水処理工程が抗菌薬耐性菌を除去する能力、特に病院廃水から除去する能力を有するかどうかを評価しなければならない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本総論は病院廃水が環境への影響、とりわけ薬剤耐性菌の供給源となることに警鐘を鳴らしている。現時点で廃水がヒトにおける耐性菌獲得の原因であるとの明確な疫学的証拠はないが、病院の廃水と市中の廃水を比較すると、大腸菌や腸球菌の濃度は変わらないが、ESBL 産生大腸菌や VRE の割合が前者は後者の数倍以上あることが報告されている。折しも 2015 年 5 月に WHO 総会において薬剤耐性(AMR)に関する世界行動計画が出され、2016 年 4月、日本政府は AMR 対策アクションプランを決定し、本格的に耐性菌対策が開始されることになっているが、その計画のなかに病院廃水についての記載はなく、今後の検討事項かもしれない。
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