ブラジルの成人集中治療室 28 施設における医療関連感染症の多病院点有病率研究★★

2018.07.31

Multi-hospital point prevalence study of healthcare-associated infections in 28 adult intensive care units in Brazil


I.A. Braga*, P.A. Campos, P.P. Gontijo-Filho, R.M. Ribas
*Federal University of Uberlândia, Brazil
Journal of Hospital Infection (2018) 99, 318-324
背景
医療関連感染症は、患者安全における世界的に重大な問題である。
目的
ブラジルの規模の異なる病院の集中治療室 28 施設における、感染症の有病率、病因、リスク因子およびパターンについての最新状況を報告すること。
方法
2016 年に、ブラジル南東部 Minas Gerais 州における 12 の地域から病院の集中治療室を 1 日の点有病率調査に組み入れた。病院は、大学病院とそれ以外の病院に分類した。調査対象とした集中治療室における滞在時間が、調査時点で 48 時間を超えていた全患者を対象とした。
結果
全体で、患者 303 例を調査対象とした。このうち、155 例(51.2%)が感染しており、123 例(79.4%)が少なくとも 1 つの集中治療室獲得感染症を有していた。集中治療室獲得感染症で最も多かったのは、肺炎(53.0%)および血流感染症(27.6%)であった。培養により細菌分離株 119 株が回収され、最も多かったのは、アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)(27.1%)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(27.1%)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(39.0%)であった。感染症のパターン別では、最も多かった病原体は、肺炎における緑膿菌(30.4%)、血流感染症におけるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci)(23.4%)および腸内細菌科細菌(Enterobacteriaceae)(23.4%)、ならびに尿路感染症における腸内細菌科細菌(47.6%)であった。
結論
本研究では、調査したブラジルの病院における集中治療室獲得感染症の全体的な有病率は、大部分の欧州諸国や米国で報告されたものより高いことが明らかになった。感染症のより多くの割合が、非発酵グラム陰性細菌によるものであった。これらの観察結果は、抗菌薬使用率が高かったことと併せて、ブラジルの公衆衛生課題における医療関連感染症の優先度を高めることが緊急に必要であることを明らかに示している。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
中~低所得国であるブラジルにおいて、集中治療室(ICU)における感染症(ICUAI)の有病率は、平均約 50%で、高いところでは 78%と ICU における感染症発生が極めて高い。ICUAI が高率である理由として、感染対策を含めた医療行為に対して訓練された職員が不足している、感染症検査へのアクセスが悪い、適切なインフラがないなどの医療資源の不足に問題があるとしている。起炎菌がわからないために広域抗菌薬が使用される、その結果耐性菌の選択がおこる、さらに手指衛生やデバイス管理などの不十分な感染対策により耐性菌は拡大するという悪循環を示す。本論文でも、カルバペネム系、広域セファロスポリン、バンコマイシンの多用が明らかとなっており、ポリミキシンの使用が同時に多いことは、カルバペネム耐性菌をはじめとする多剤耐性菌の蔓延を物語る。ブラジルにおける多施設共同調査により ICUAI の実態が明らかとなったが、改善すべき課題は多く、医療資源の限界もある。しかしながら、抗菌薬耐性の地球全体への拡散を懸念するならば、先進国はこれらの国々への医療資源の投入についても考慮しなければならないであろう。

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