国内の抗菌薬予防投与ガイドラインの遵守が人工股関節全置換術や人工膝関節全置換の術後感染症に与える影響★
Impact of adherence to local antibiotic prophylaxis guidelines on infection outcome after total hip or knee arthroplasty
J. Chandrananth*, A. Rabinovich, A. Karahalios, S. Guy, P. Tran
*Orthopaedics, Western Health, Australia
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 423-427
背景
手術部位感染症(SSI)予防のための術前の抗菌薬投与に関して、国内のガイドラインが存在するが、これらのガイドラインの遵守率を示した研究はこれまで発表されていない。
目的
当病院内における国内ガイドラインの遵守状況、およびガイドラインの遵守が SSI 率に及ぼす影響を検討すること。
方法
本研究は、人工股関節置換術または人工膝関節置換術を受けた患者 1,019 例を対象とした後向き観察研究であった。オーストラリア、メルボルンの都市部の 3 病院で 2年半の間に実施された手術を対象とした。オーストラリア治療ガイドライン Australian Therapeutic Guidelines の抗菌薬予防投与に関するリコメンデーションを用いた。
結果
対象となった手術のうち 61.3%が予防投与ガイドラインを遵守し、38.7%は遵守していなかった。合計の SSI 率は 2.7%であり、ガイドラインを遵守した手術の SSI 率は 1.7%であったのに対し、不遵守の SSI 率は 5.0%であった(P < 0.01)。全体として、患者の 98.4%がガイドラインに記載された抗菌薬を投与されていた。手術のうち 1.7%が4 時間を超えていたが、2回目の投与が適切に行われていたのは 23.5%のみであった。体重が 80 kgを超える患者(手術の 49.5%)のうち、ガイドラインに沿った用量で抗菌薬投与が行われていたのは 58.7%のみであった。体重が 80 kgを超える患者で、ガイドラインに沿っていない用量で投与を受けた者の SSI 率は 6.6%であり、SSI のオッズ比は 3.89 であった(信頼区間 1.17 ~ 7.84、P = 0.01)。
結論
ガイドラインの不遵守は、人工膝関節全置換術または人工股関節全置換術を受けた患者の SSI リスクを増大させた。体重 80 kgを超える患者で用量調節を行うというリコメンデーションが遵守された割合は低く、これらの患者では結果的に感染のリスクが高かった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
SSI に対する予防的抗菌薬の投与については、エビデンスの蓄積、ガイドラインの作成と臨床応用、および評価が進んでいるが、まだ不明な点も多く、かつ臨床現場での浸透も不十分である。本研究は後向き観察研究ではあるものの、整形外科領域においてガイドラインに当てはまらない予防投与が行われた例において、SSI の発症率が高いことが示された。ただし体重で用量調節を行うこと以外に、不遵守のどの点が SSI 発症に強く関与したかはまだ不明であり、今後の検討が待たれるところである。
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