閉鎖環境における結核のアウトブレイク:分子的手法および従来法での結果に基づいた伝播に対する見解

2016.06.23

Outbreak of tuberculosis in a closed setting: views on transmission based on results from molecular and conventional methods


E. Antusheva*, O. Mironuk, I. Tarasova, P. Eliseev, G. Plusnina, M. Ridell, L-O. Larsson*, A. Mariyandyshev
*Northern State Medical University, Russia
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 187-190
背景
本研究は、精神疾患男性患者が長期間または永続的に居住するナーシングホームで発生した結核のアウトブレイクについて報告する。この種の環境は、社会の他の人々との接触が極めて限られているため、伝播のモデルとなりうる。
目的
同時期に同じ場所で結核と診断された症例が、分子的手法および従来法を用いた結果に基づき、関連しているかどうかを検討すること。
方法
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)株を、薬剤耐性試験および MIRU-VNTR(反復配列多型分析)法で分析した。微生物学的結果は、臨床経過および診断時期と関連していた。
結果
患者 9 例が結核と診断され、そのうち 7 例から株が回収された。意外にも、同じ遺伝子型の株は異なる耐性パターンを示し、2 株のみが同一パターンを示した。MIRU-VNTR 分析で、1 例の患者が 2 つの異なる株に感染していることが示された。
結論
株のばらつきは、アウトブレイクが複数の感染源から発生した可能性があることを示し、耐性のばらつきは、抗菌薬耐性が急速に出現する可能性があることを示している。これにより、感染源、発症、耐性、および混合感染についていくつかの疑問が浮かび上がってくる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
結核感染の適切な予防と対策のためには、伝播経路の把握が必須である。長期に入所し、外との接触のない閉鎖された環境での結核の分子疫学的解析は、伝播に関する新たな知見を与えてくれる可能性がある。本論文ではロシアのある精神病院で発生した結核のアウトブレイクを VNTR を用いた分子疫学的手法により解析し、このアウトブレイクが単一の感染源によるものではなく、分離結核菌 7 株中 5 株は全く異なる株であることが判明した。分子疫学的解析は結核感染において伝播経路についての有用な情報をもたらす。本アウトブレイクは、活動性結核患者が過去に入所していて、結核の伝播が起こっていたにもかかわらず、発症者が見過ごされていた結果であり、時期的に発症が重なったものと推測される。一方で、活動性結核症例からの二次感染の 13 ~ 20%が、塗抹陰性の症例からであるとの報告もあり、注意が必要である。
解説)MIRU-VNTR とはmycobacterial interspersed repetitive units-variable numbers of tandem repeats で、結核菌ゲノム上に存在するミニサテライト DNA 中の繰り返し配列のコピー数を調べることにより、結核菌をタイピングする方法である。(新結核用語辞典から)

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