新生児集中治療室における多剤耐性大腸菌(Escherichia coli)ST(シークエンス型)131 のアウトブレイク:効率的な積極的サーベイランスは死亡を防止した★★

2016.06.23

Outbreak of multidrug-resistant Escherichia coli sequence type 131 in a neonatal intensive care unit: efficient active surveillance prevented fatal outcome


C. Silwedel*, U. Vogel, H. Claus, K. Glaser, C.P. Speer, J. Wirbelauer
*University Hospital Würzburg, Germany
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 181-186
背景
新生児集中治療室(NICU)における多剤耐性菌感染症のアウトブレイクは、特に超早産児にとって大きな脅威となる。本研究では、ドイツの第 3 次 NICU における多剤耐性大腸菌(Escherichia coli)の 35 日間のアウトブレイクについて報告する。
目的
早産児の特に脆弱なコホートにおけるサーベイランス方針の重要性を示し、アウトブレイク制御戦略の有効性について明らかにすること。
方法
データは診療記録から後向きに収集した。乳児および環境に対して大腸菌の検査を行った。
結果
在胎期間 25+1 週から 35+0週の間に出生した乳児計 13 例がアウトブレイクの影響を受け、そのうち 7 例が感染の徴候を示した。アウトブレイク株は大腸菌シークエンシング・タイプ ST 131 と同定された。環境のスクリーニングでは、環境感染源を示すエビデンスは得られなかった。保菌状態のサーベイランスおよび感染した可能性のある早産児に対して直ちに十分な治療を行ったことから、死亡例はなかった。アウトブレイクは、厳格な接触予防策、スクリーニングの強化、および NICU の一時的な移設によって制御された。移設および再編によって NICU の構造レイアウトが改善され、隔離能力に重点が置かれた。追跡調査によって、一部の乳児で数か月間の保菌が示された。
結論
ルーチンにサーベイランスを行うことによって、アウトブレイクの早期発見が可能となった。アウトブレイク株の保菌の同定は、感染症例の直接的な抗菌薬治療に有効であった。衛生対策の強化および病棟の移設はアウトブレイクを制御するための手段となった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
大腸菌は、市中感染と病院感染の両者における代表的原因菌であり、同時に B 群溶連菌やリステリアと並ぶ新生児の重要な感染症起炎菌である。この NICU におけるアウトブレイクにおいて、MLST(マルチ・ローカス・シークエンス・タイピング)によるシークエンス解析により大腸菌 ST131 株が検出された。本株は、基質拡張型βラクタマーゼを産生し、同時にキノロン耐性を示す。本論文では積極的培養スクリーニングにて本菌株の保菌者を発見し、感染症発症後速やかに適切な抗菌薬を投与することで死亡例を出さずに治療が可能であったとし、耐性菌対策としてスクリーニング培養の重要性を強調している。また、本論文では同時に感染予防策強化の一環として、NICU 病棟を移転し、旧病棟の改修を実施した。改修により病室を広くし、インキュベーター間隔は 2M 以上を確保し、その後のアウトブレイクを防げたとしている。
解説)MLST とは、既知の微生物がもつ遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)を数種類設定し、その部分のシークエンス解析をすることで塩基配列をパターン化し、データベース化後、未知のもののシークエンス結果と比較することで、同定分類する手法である。これにより本症例のような疫学的解析が可能となる。

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