個室隔離室におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の消毒強化のための蒸気化過酸化水素による2 種類の空気汚染除去装置の効果★
Efficacy of two hydrogen peroxide vapour aerial decontamination systems for enhanced disinfection of meticillin-resistant Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae and Clostridium difficile in single isolation rooms
S. Ali*, M. Muzslay, M. Bruce, A. Jeanes, G. Moore, A.P.R. Wilson
*Clinical Microbiology and Virology, University College London Hospitals NHS Foundation Trust, London, UK
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 70-77
背景
患者の病院内環境病原菌への曝露を減らすために、蒸気化過酸化水素(HPV)消毒装置が使用されている。HPV による部屋全体の空気消毒装置は、運転時の濃度および薬剤分布状況が異なることがある。
目的
2 種類の HPV 装置(HPS1 および HPS2)について個室隔離室の部屋全体の空気消毒効果を評価すること。
方法
患者退院後の手作業による最終消毒のために個室隔離室 10 室を選択した。バイオロジカルインジケータとなる細菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA]および肺炎桿菌[Klebsiella pneumoniae]は約 106 コロニー形成単位[cfu]、クロストリジウム・ディフィシル[Clostridium difficile]027 芽胞約 105 cfu)を塗布し、模擬汚染菌として準備した試験片 を 1 室当たり 5 カ所に設置した。各サイクルで、HPV による汚染除去の前後に、個室隔離室で頻繁に接触する表面 22 カ所から接触培地法(約 25 cm2)によりサンプルを採取し、病原菌の残存性についてバイオロジカルインジケータを分析した。
結果
手作業による最終消毒後、214 カ所のうち約 95%は細菌に汚染しており、多数のコロニーが認められた場所は個室隔離室の床(238.0 ~ 352.5 cfu)、ベッド制御パネル(24.0 ~ 33.5 cfu)、看護師呼び出しボタン(21.5 ~ 7.0 cfu)であった。HPV を用いた消毒強化により、表面の汚染は低レベルまで減少した:HPS1(0.25 cfu、四分位範囲[IQR]0 ~ 1.13)、HPS2(0.5 cfu、IQR 0 ~ 2.0)。両装置は、同程度の所要時間を示し(約2 ~ 2.5時間)、バイオロジカルインジケータに対して両装置の効果の差は認められなかった(C. difficile 約 5.1 log10 の低下、MRSA / K. pneumoniae 約 6.3 log10の低下)。過酸化水素の操作濃度が異なるにもかかわらず、MRSA は、HPV による汚染除去後の試験片の 27%に残存した。
結論
HPV による消毒強化は、手作業による最終清掃で残された表面汚染を低減し、交差汚染リスクを最小限にする。過酸化水素の運転時の濃度と薬剤分布状況は、実際には汚染除去の効果を改善しない可能性があるため、HPV 装置は、費用、利便性、物流など他の考慮事項に基づいて選択されるかもしれない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
英国のみならず EU 諸国や北米において、多剤耐性菌以外に C.difficileの 027 株の流行は、様々な病室内の消毒装置開発を後押ししている。医療施設内感染において医療スタッフの手指は患者への直接伝播につながるため、手指衛生の改善は感染対策における第一優先事項であるが、施設環境は間接的に患者への伝播を媒介するために、環境整備も同様に重要である。HPV 消毒装置は、高価であること、毒性のため操作時には室内には入れず、また消毒に 3 ~ 4 時間が必要であることを考慮する必要がある。患者退室後に実施される「最終清掃」は、新たに入室した患者への二次感染を防ぎ、特に高頻度接触面の汚染除去は重要である。これらの消毒装置はシンプルな環境整備(手作業による環境の有機物汚染や病原体の除去と消毒)を補完するが、決してそれらに置き換わるものではない。
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