高リスクの抗菌薬投与を受けている患者におけるプロトンポンプ阻害薬の有無によるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の発生率★★
Incidence of Clostridium difficile infection in patients receiving high-risk antibiotics with or without a proton pump inhibitor
D. Gordon*, L.R. Young, S. Reddy, C. Bergman, J.D. Young
*Jesse Brown Veterans Affairs Medical Center, USA
Journal of Hospital Infection (2016) 92, 173-177
背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の発生率と重症度を考慮すると、リスク軽減戦略が極めて重要である。先行研究により、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は、抗菌薬単独よりも CDI のリスクを上昇させる可能性があることが示唆されている。しかし、データとガイドラインは矛盾している。
目的
高リスクの抗菌薬投与を受けている患者における CDI 発生率を検討し、PPI の処方を受けた患者と PPI の重複曝露がなかった患者とを比べること。
方法
この後向きコホート研究では、高リスクの抗菌薬投与を受けている退役軍人を対象として約 3 年間にわたり CDI 発生率を評価した。高リスクの抗菌薬は、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフタジジム、またはセフィキシムと定義した。
結果
何らかの高リスクの抗菌薬の処方を受けた被験者のうち、PPI を同時併用していた 3,513例、PPI を使用していなかった 6,149 例を特定した。これらの被験者のうち、111 例が CDI と診断され、組み入れ基準を満たしていた。ベースライン特性、CDI の重症度、感染前の入院期間と抗菌薬治療期間は、両群で同様であった。CDI の発生率は、PPI の処方を受けた患者で有意に高かった(オッズ比[OR]2.2、95%信頼区間[CI]1.52 ~ 3.23、P = 0.0001)。PPI と、同時併用したフルオロキノロン類(P = 0.005)、クリンダマイシン(P = 0.045)とは強く関連していた。
結論
PPI と高リスクの抗菌薬との併用は、有意に高い CDI 発生率と関連していた。本研究は、特に高リスクの抗菌薬投与を受けている患者において、PPI を慎重に使用するという CDI 予防戦略にさらなる裏付けを与えるものである。PPI を賢明に避けることで、世界中で疾患および死亡の主な原因となっている CDI 発生率を低下させる可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本論文では PPI 単独あるいはフルオロキノロンあるいはクリンダマイシンとの併用が有意な危険因子であることを示している。胃酸の重要性が軽視されがちであるが、動物実験において胃酸の殺菌作用と毒素中和作用が確認されている。PPI の使用により CDI 発生率は 1.4 ~ 2.75 倍増加するとの報告がある一方で、関連性なしとするものもあり、2010 年の米国感染症学会と米国病院疫学学会のガイドラインにおいては、PPI 使用と CDI 発生についてはその関連性を結論づけていない。PPI はストレス潰瘍予防や逆流性食道炎に日常的に使用され、そのまま長期にわたり継続投与されており、投与継続の必要性の見直しがなされていないという現状がある。本論文は後ろ向きコホートであり、エビデンスとしての限界はあるものの、PPI の使用については、CDI 発生という別の観点から「PPI使用のスチュワードシップ(適正使用)」が必要と考える。
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