集中治療室の環境表面はバイオフィルム内の多剤耐性菌により汚染されている:通常の培養法、パイロシークエンス法、走査電子顕微鏡、および共焦点レーザー顕微鏡の併用による結果★
Intensive care unit environmental surfaces are contaminated by multidrug-resistant bacteria in biofilms: combined results of conventional culture, pyrosequencing, scanning electron microscopy, and confocal laser microscopy
H. Hu*, K. Johani, I.B. Gosbell, A.S.W. Jacombs, A. Almatroudi, G.S. Whiteley, A.K. Deva, S. Jensen, K. Vickery
*Macquarie University, Australia
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 35-44
背景
病院感染は多くの疾患および死亡を引き起こし、その治療は高価である。このような感染症の原因微生物は、患者の周囲の無生物環境に由来する場合がある。これらの微生物を環境から根絶することが困難であるのは、乾燥表面のバイオフィルム内に生息しているためであろうか?
目的
3 次紹介病院の廃止された集中治療室(ICU)で臨床表面の破壊的サンプリングを実施し、多剤耐性菌が廃止プロセス中に生残しているか、またバイオフィルム内に存在しているかについて調査した。
方法
この ICU は、500 ppm の遊離塩素溶液を用いた二段階「最終清掃」を実施していた。切断器具を用いて寝具類、周囲環境、および取り付け材からサンプル採取を行った。切断片をトリプトンソーヤブイヨン中で超音波処理し、発色酵素基質平板培地に接種して多剤耐性菌を検出し、Vitek2 システムを用いて確認を行った。ICU のサンプルからゲノム DNA を直接抽出し、femA に対する PCR 法による黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の検出、および bacterial tag-encoded FLX amplicon pyrosequencing(bTEFAP)による微生物叢の評価を行った。共焦点レーザー顕微鏡および走査電子顕微鏡により、環境サンプルを調べた。
結果
多剤耐性菌は、培養サンプルの 52%(44 件中 23 件)で陽性であった。黄色ブドウ球菌の PCR 法では 50%が陽性であった。バイオフィルムは、共焦点レーザー顕微鏡および/または走査電子顕微鏡によりサンプルの 93%(44 件中 41 件)に認められた。パイロシークエンス法により、バイオフィルムには複数の細菌が認められ、また多剤耐性株を含む細菌種も存在することが示された。
結論
塩素溶液による最終清掃を実施していたにもかかわらず、ICU の乾燥表面からは多剤耐性菌を含むバイオフィルムが検出された。どのようにしてこのようなことが生じるのか、またどうすればこれらの除去が可能であるかのかについては、さらなる研究が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
バイオフィルムは、細菌が産生する多糖体を主成分とする構造体である。バイオフィルム内の細菌に対しては、抗菌薬や消毒薬の効果は著しく減少するため、バイオフィルム形成による感染症が血管留置カテーテルや人工関節などの人工物上に起こると、極めて難治性となり、器材の抜去が完治のための唯一の方法となる。本論文は、ICU 環境での二段階最終清掃方法(中性洗剤による清拭後にさらに 0.05%のジクロロイソシアヌル酸ナトリウムによる清拭をする方法)でのバイオフィルムの除去効果をみている。二段階の清掃を実施しても、バイオフィルム内の細菌の除去はできなかったとの結論である。バイオフィルムを含む汚染の程度と院内感染の発生との直接的な関連性を見いだすことは困難であるが、環境で汚染された器材や手指を介した感染を防ぐためには、徹底した環境整備は必要である。バイオフィルムを破壊し、病原体を確実に除去する製剤の開発が望まれる。
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