医療従事者に対する感染予防・制御の当事者意識の促進:Normalization Process Theory の解釈的枠組みとしての利用★

2016.12.21

Promoting health workers’ ownership of infection prevention and control:using Normalization Process Theory as an interpretive framework


D.J. Gould*, R. Hale, E. Waters, D. Allen
*Cardiff University, UK
Journal of Hospital Infection (2016) 94, 373-380
背景
すべての医療従事者は、感染予防対策(IPC)に責任を持つべきである。英国における重要な医療関連感染報告の最近の減少は見事であるが、成功の決定要因は明らかでない。新たな問題が発生し、抗菌薬耐性の恐れが増大したときに IPC 戦略がどのように作動するかは理解しておく必要がある。
方法
著者らは、1つの医療組織全体に導入される IPC に関して、IPC および「当事者意識」を強化する行動計画の後向きの第三者評価を実施した。目的別に選択された情報提供者 20 名にインタビューした。データを帰納的に分析した。Normalization Process Theory(NPT)を応用して、結果を解釈し、行動計画がどのように作動しているかを説明した。
結果
帰納的分析により 6 つのテーマが浮かび上がった。テーマ 1:「当事者意識の意味を理解する能力」は第 1 の NPT 成分(必要性と重要性の理解)の証拠を示した。職業集団や勤続年数によらず、情報提供者は IPC の当事者意識の重要性を理解し、それに必要な事項を述べた。情報提供者は 3 つの必要条件を特定した:「常に意識し、怠らない」(テーマ 2)、「情報入手の重要性」(テーマ 3)および「非難しない文化の中でともに学ぶことができる」(テーマ 4)。各テーマに関連したデータは、変化を盛り込むために必要とされるその他の NPT 成分の証拠を示した:実施計画(実践内容への認知的参加)、変化を達成するために必要な仕事の引き受け(組織や職員の共同的実践行動)、持続的な質の改善の一部として変化を促進するために他に必要なものがないかの熟考(振り返りによる再評価)。情報提供者は、障害(仕事量など)および促進するもの(明らかな連絡手段、IPC への期待)を特定した。
結論
IPC 当事者意識を取り入れた行動計画を実施して 18 か月後、持続的なサービス改善および感染率の顕著な減少が認められた。IPC の日常医療へのルーチンの取り込み「標準化」を促進/阻害する要因を特定する理論を応用することは、IPC イニシアチブの成功を説明し、実施について情報提供する一助となりうる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
感染予防対策(IPC)は過去において「上意下達」方式であったが、これは現場状況を考慮していないため持続性が確保できないことがわかっている。すなわち、「現場の職員が、自分たちが感染予防対策をやるのだ」という当事者意識が重要であるが、これまでの研究ではその点が十分明らかにされていない。IPC を効果的に実施するために必要な要素は、現場職員、ICT、病院管理者間の良好なコミュニケーション(意思疎通と連携)であり、現場からの意見の集約、現場の要望にあった介入策の提案と調整、継続的に実施状況を還元することで失敗から学ぶ雰囲気の醸成である。感染対策の成否は、現場職員の意識と行動のいかんにかかっており、対策を快く受け入れ,これを実践しようとする意志により達成される。NPT はそれを支える理論である。
NPT Normalization Process Theoryとは、医療における複雑な介入(ここでは感染予防対策)を日常的に導入する(作業をルーチン化する[= normalization]際に遭遇する阻害因子と促進因子を特定し、医療現場での日々の実践につなげるための社会学的行動理論。NPTは 4 つの要素から構成され、これらは試みが成功するための必須項目となる。① coherence:
介入策の理解、② cognitive participation:積極的な関わり、③ collective action:介入策の実践、④ reflexive monitoring:介入策の評価、利点や費用などの効果。

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