自己報告による手指衛生行動の心理社会的決定因子:集中治療室の医師と看護師との比較調査

2015.09.30

Psychosocial determinants of self-reported hand hygiene behaviour: a survey comparing physicians and nurses in intensive care units


T. von Lengerke*, B. Lutze, K. Graf, C. Krauth, K. Lange, L. Schwadtke, J. Stahmeyer, I.F. Chaberny
*Hannover Medical School, Germany
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 59-67
背景
心理学的行動変容理論を手指衛生遵守に適用した研究はわずかであり、特に医師を対象としたものは少ない。
目的
集中治療室(ICU)の医師および看護師の自己報告による手指衛生行動の心理社会的決定因子を特定すること。
方法
Health Action Process Approach の概念を hygienic hand disinfectionに適用した自記式質問票を用いて、ドイツの Hannover Medical School の ICU 10 室および 2 つの造血幹細胞移植部門で横断研究を実施した。自己報告による遵守の評価は、感染リスクを有する業務を実践する際に「常に」自分の手指を消毒するかどうかを尺度とした。心理学的因子として、行動計画、自己効力感の維持(maintenance self-efficacy)、および行動制御について、7 点リッカート尺度による評価を行った。主観的な環境因子として、人的および物的リソース、組織の問題、および病棟での協力について評価した。多重ロジスティック回帰分析を使用した。
結果
合計で、医師 307 名および看護師 348 名が本研究に参加した(回答率はそれぞれ 70.9%、63.4%)。自己報告による遵守には群間で差がなかった(72.4%対 69.4%、P = 0.405)。看護師による報告では行動計画、自己効力感、および行動制御がより強固であり、医師の回答では人的リソースおよび病棟での協力がより良好であった(P < 0.02)。医師では自己効力感(オッズ比[OR]1.4、P = 0.041)、行動制御(OR 1.8、P < 0.001)、および病棟での協力(OR 1.5、P = 0.036)と、手指衛生行動との間に正の関連がみられたが、看護師では行動制御(OR 1.6、P < 0.001)のみが手指衛生行動と正の関連を示した。
結論
行動制御(ガイドラインを規範とした行動評価を継続的かつ自動的に実施する自己制御戦略)と遵守との間に関連がみられたことは、手指衛生行動は自己モニタリングを必要とする習慣であることを示している。医師において病棟での協力の自覚が手指衛生行動と関連する唯一の環境因子であったことは、チームを標的とした介入が重要であることを明示している。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
文中にあるとおり、職種ごとに手指衛生を徹底する行動に意識の差があることは、これまでも指摘され、解析されてきた。ただし本研究では、心理学的行動変容理論を基礎に評価した点が興味深い。ドイツで行われた研究であるが、日本での現状と似通ったところがあるように感じられる。

監訳者注:
Hygienic hand disinfection:当サイト既報の監訳者注参照(Kramer A, et al. J Hosp Infec 2008;70(S1):35)。

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