ベトナムの過密な病院で患者区域と診療区域が分離されていないことの環境的な問題点
Environmental challenges of identifying a patient zone and the healthcare zone in a crowded Vietnamese hospital
S. Salmon*, M.L. McLaws
*UNSW Australia, Australia
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 45-52
背景
世界保健機関(WHO)の「手指衛生の 5 つの機会」については、病床同士の間隔や病床稼働率が先進国の通常の水準にある医療環境での適用を想定して考案されたものである。しかし、ベトナムの過密な医療施設や問題を抱えるその他の環境では、それぞれの必要性に合致するように「手指衛生の 5 つの機会」を修正する戦略が求められる。
目的
「手指衛生の 5 つの機会」の指示を遵守することに対する環境的な問題点を特定すること。
方法
ベトナムの大規模教育病院の 2 つの診療部門で、WHO の手指衛生監査ツールを用いて overt observation を実施した。診療行動および「5 つの機会」の指示を、イラストにより示した。
結果
ベトナムでは集中治療室を除いて 1 つの病床の複数患者による共用が一般的に行われており、WHO の指示に沿った患者区域の可視化が困難である。また、過密な医療施設で患者が共用している病床同士の間隔が狭いことは、共用診療区域への患者の近接につながる。これらの 2 つの障壁は、「5 つの機会」を正しく適用する取り組みを阻害する。
結論
「手指衛生の 5 つの機会」に沿った手指衛生実践および監査は、患者とそれぞれの診療区域とが分離していることが前提となっている。「5 つの機会」の適用の障壁は、患者区域と共用診療区域との分離帯がないこと、および改善のためには現在の慢性的なリソース不足の問題を上回るリソースが必要になることなどである。環境的なリソースが「5 つの機会」の原則を適用するために必要となる西側諸国の基準に合致するまでは、医療従事者による遵守が可能となるような詳細な修正指針を明らかにすることが緊要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本論文に記載されているベトナムの教育病院での病棟の患者配置をみると、ベッド間隔が極めて狭いあるいは隣接している、同一ベッドに 2 名が寝ているなど、現在の一般的な日本の病院ではあり得ない状況が報告されている。WHO の手指衛生 5 つの機会を適用するには、患者域と医療域との区別が明確にできていることが必須条件となる。前述のように必須条件を満たすことができないため、結果として手指衛生の 5 つの機会をうまく定義できず、不十分な手指衛生の状況をつくりだしている。5 床ある ICU でさえも、1 か所にしか手指消毒剤は配置されていない状況であった、多剤耐性菌が東南アジアでも拡大しており、病院環境、特に患者ベッド環境の改善は急務であるが、経済的な壁が立ちはだかっている。
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