集中治療室におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA):転帰への影響および獲得のリスク因子★
Meticillin-resistant Staphylococcus aureus in the intensive care unit: its effect on outcome and risk factors for acquisition
J. McMaster*, M.G. Booth, A. Smith, K. Hamilton
*Glasgow Royal Infirmary, UK
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 327-332
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は、集中治療室(ICU)における院内感染症の原因として高い頻度でみられる。ICU で獲得した MRSA は不良な転帰と関連すると認識されているが、このことを支持するデータはほとんどない。
目的
ICU での MRSA 獲得が 180 日死亡率に及ぼす影響を明らかにすること、および獲得に関連するリスク因子を特定すること。
方法
2007 年から 2013 年にかけてデータを前向きに収集した。ICU 入室期間を通じて MRSA 陰性であった患者を、年齢、Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコア、ICU 入室期間、および手術の施行/未施行について MRSA 獲得患者とマッチさせた。
結果
合計 2,405 例の患者を解析対象とした。ICU で MRSAを獲得した患者は、入院時に MRSA 陽性であった患者および ICU 入室期間を通じて MRSA 陰性であった患者と比較して、ICU 入室期間が有意に長かった(いずれも P < 0.001)。180 日死亡率は群間で有意差はなかった(P = 0.238)。ICU 入室後 48 時間以内に確認された非 MRSA 感染症は、MRSA 獲得リスク上昇と関連し(補正オッズ比[OR]2.57、P = 0.005)、ICU 入室後 48 時間以内に抗菌薬療法を受けたことは MRSA 獲得リスク低下と関連した(補正 OR 0.38、P = 0.014)。
結論
MRSA 獲得は重症患者の死亡に影響しない。これは、感染予防策として ICU における MRSA の制御を重視することついて、費用対効果の点で疑問を提起するものである。本研究コホートでは MRSA 獲得率が低く、またそのリスク因子が特定されなかったことは、全患者を対象とした標準的な感染制御策を継続的に改善する取り組みが必要であることを示している。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
MRSA は英国においても重要な院内感染の原因菌であり、死亡率や医療コストに大きく関与することが知られている。本論文では、ICU における MRSA の獲得と予後への影響を検討しているが、入室後 MRSA 獲得患者は、MRSA 未検出患者および既獲得患者との間に死亡率の差はなかった。その理由として、ベッド数 20 床の ICU での調査期間中の感染率は 3.1%とこれまでの報告(7% ~ 10%)よりもかなり低いことが、ICU 内での死亡率に影響しなかった可能性がある。得られた結果から、標準予防策のみで接触予防策などの追加予防策は不要と結論するのは短絡的であり、これまでの多方面にわたる感染対策の実施が、重症患者の死亡率に変化がなかったと考えるべきかもしれない。
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