関節全置換術施行時の手術室の換気システムと微生物空気汚染:GISIO-ISChIA 試験の結果★
Operating theatre ventilation systems and microbial air contamination in total joint replacement surgery: results of the GISIO-ISChIA study
A. Agodi*, F. Auxilia, M. Barchitta, M.L. Cristina, D. D’Alessandro, I. Mura, M. Nobile, C. Pasquarella on behalf of the Italian Study Group of Hospital Hygiene (GISIO)
*University of Catania, Catania, Italy
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 213-219
背景
最近の研究から、人工股関節植込み手術による手術部位感染症(SSI)の発生率は、一方向流換気を使用した場合のほうが乱流換気と比較して高いことが示されている。しかし、これらの研究では手術室の空気中微生物の質が測定されておらず、その換気システムの推奨基準を満たしていることを前提としている。
目的
人工股関節および膝関節置換術時の手術室の空気中微生物汚染の評価を行うこと、および得られた結果を人工関節置換術時の推奨値と比較すること。
方法
一方向流型、乱流型、および混合型の換気を行っている28の手術室で空気サンプルを採取した。受動的サンプリング法によりサンプルを収集し、微生物空気汚染指標(IMA)※を算出した。一部の手術室では能動的サンプリングも実施した。サンプル採取期間中に、手術室内の平均人数および平均ドア開閉回数を記録した。
結果
合計 1,228 件の待機的人工関節置換術(股関節 60.1%、膝関節 39.9%)を本研究の対象とした。手術施行中の受動的サンプリングで IMA 値 > 2 であったのは、一方向流換気の手術室 58.9%、混合換気の手術室 87.6%であった。手術施行中のサンプル採取で IMA 値 ≦ 2 であったのは、乱流換気の手術室 8.6%、手術チームが Steri-Shield Turbo Helmet を装着していた乱流換気の手術室 60%であった。IMA 値と、手術室内の人数およびドア開閉回数との間に正の相関が認められた(P < 0.001)。さらに、能動的サンプリング法と受動的サンプリング法との間にも相関が認められた(P < 0.001)。
結論
これらの結果は、一方向流システムによって、許容可能な空気中細菌数が必ず確保できるという考え方に異議を唱えるものである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
2008 年にドイツで行われた後向き研究の結果では、従来から推奨されている一方向流換気システムを用いたほうが乱気流システムよりも人工股関節置換術における手術部位感染発生率が高かった。これ以後、様々な研究が行われているが、実際に空気中細菌数を検討した研究は少ない。本研究では一方向流システムでも 58.9%で IMA ≦ 2 を満たさなかったことが分かった。しかしそれ以外にも、手術室のドアの開閉や人の出入りなど様々な要素が空気中細菌数に大きな影響を与えていることがわかった。感染管理担当者は手術室の環境について様々な視点から検討し、なおかつ新しい研究結果にも注目しておかなければならない。
監訳者注:
※微生物空気汚染指標(index of microbial air contamination):文献参照(Pasquarella C, et al. J Hosp Infect 2000;46:241)。本研究では IMA 値 ≦ 2 を推奨値としている。
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