全ゲノムシークエンシングにより再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症患者の再燃と再感染との鑑別が向上し、伝播イベントが特定できる★

2015.06.30

Whole-genome sequencing improves discrimination of relapse from reinfection and identifies transmission events among patients with recurrent Clostridium difficile infections


M. Mac Aogáin*, G. Moloney, S. Kilkenny, M. Kelleher, M. Kelleghan, B. Boyle, T.R. Rogers
*Trinity College Dublin, St James’s Hospital, Ireland
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 108-116
背景
再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)は医療における大きな課題である。再発には、初発時の菌株が再度 CDI を生じる場合(再燃)と、院内で新たに獲得した別の菌株による場合(再感染)とが考えられる。
目的
3 次紹介病院で再発性 CDI を引き起こした C. difficile 分離株の特性を全ゲノムシークエンシングを用いて解析し、高レベルの遺伝子解像度で分離株の類似性を評価するとともに、再燃、再感染、および推定される伝播イベントを正確に検出することを目的とした。
方法
18 か月間にわたって再発性 CDI の症例を前向きに収集した。臨床的に定義した CDI のエピソードが 2 回以上みられたすべての患者から、便検体を経時的に採取し、C. difficile 培養を行った。患者特性と臨床情報を記録するとともに、分離株の関連性を PCR 法を用いたリボタイピングおよび全ゲノムシークエンシングの両方法により調べた。
結果
臨床的に定義した CDI エピソードを 2 回以上生じた患者は 19 例であった。これらの患者の再発性 CDI エピソードの累積件数は 39 件(合計エピソードは 58 件)であった。入院期間の中央値は 144 日、患者あたりの CDI エピソード数は 2 ~ 7 件であった。リボタイピングからは、27 件は同一株による明らかな再燃であること、5 件は再感染であること、リボタイプ 078(ST-11)と 020(ST-2)が優勢であることが示された。全ゲノムシークエンシングでは再燃の特性評価における確実性が向上し、同一株に発生した一塩基変異を特定することができたが、これらの変異は様々な遺伝子に対する機能的影響が想定されるものであった。再発性 CDI 患者 14 例に共通するリボタイプから、患者間の伝播イベントが 10 件生じていた可能性があった。しかしながら全ゲノムシークエンシングを行うと、4 件を除くすべての伝播イベントで、リボタイプよりも下位のレベルにおいて大きな多様性がみられることが判明した。
結論
再燃と再感染との鑑別、患者間伝播イベントの特定、および再発性 CDI の疫学に関する詳細な構造特性の解析に関して、全ゲノムシークエンシングには PCR 法によるリボタイピングと比較していくつかの利点が認められた。全ゲノムシークエンシングによって、再発性 CDI 患者間の菌株伝播を根絶する焦点を絞った感染制御戦略が可能になると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
これまで再発性の CDI の分子疫学的解析にはリボタイピングや MLST 法が用いられてきたが、今回全ゲノム―シークエンスにより詳細な解析結果が得られ、同一株の伝播過程において、遺伝子の変異が経時的に蓄積していくことが明らかになった。菌の進化と伝播における適応を反映しているのかもしれないが、このようなメカニズムの解明は、将来、感染経路を遮断する有効な方策につながると期待される。

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