メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)クローンの同定のための新規マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型マススペクトル(MALDI-TOF-MS)に基づくタイピング法の開発★★
Development of a novel matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrum (MALDI-TOF-MS)-based typing method to identify meticillin-resistant Staphylococcus aureus clones
O. Ueda*, S. Tanaka, Z. Nagasawa, H. Hanaki, T. Shobuike, H. Miyamoto
*Siemens Healthcare Diagnostics KK, Japan
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 147-155
背景
マススペクトル解析は、種および亜種レベルの同定が可能となるため、アウトブレイク管理における疫学的ツールとして利用できる。しかし、そのクローンレベルでの信頼性については、いまだ明確にされていない。
目的
パルスフィールド・ゲル電気泳動/phage open-reading frame typing(PFGE/POT)と同等の正確度による細菌のクローン同定が可能な、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型マススペクトル(MALDI-TOF-MS)に基づく方法を確立すること。
方法
本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)を使用した。黄色ブドウ球菌の標準株(ATCC29213)、および POT により分類した臨床分離株 57 株のマススペクトルを得た。MRSA クローンの同定に関連するピーク(N = 67)を抽出した。このピーク情報に基づいて、MRSA クローン同定の実施可能性をクラスター分析により評価した。
結果
ピーク抽出に用いた 58 株のほか、臨床分離アウトブレイク株 24 株のマススペクトル分析から、ピークデータはクローン同定に使用可能であることが示された。これらのタイピングの結果は、PFGE および POT の結果と十分に一致していた。
結論
この新規方法は、簡便かつ迅速なタイピングが可能であり、正確度は PFGE/POT と同等である。この方法は、感染症に対抗するための正確な情報を提供するものであり、アウトブレイクの迅速な解析に適していると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
新規性の高い研究であること、しかもそれが日本人研究者による研究であること、身近で有用なタイピング手法が 1 つ増える期待から★★をつけた。これまでは、菌株のタイピングには、PFGE 法や最近は POT 法などが用いられてきた。MALDI-TOF-MS は菌種レベルの同定には使えるものの、株レベルでの判定は困難と考えられてきた。本論文は、MALDI-TOF-MS の波形パタンを利用したクローン同定が可能であることを示した。考えられる有用性としては、時間の短縮、費用の軽減、手技の簡便性である、とされているが、MALDI-TOF-MS の設備投資を考えると、しばらくは研究分野での応用が主体となるのだろうか。
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