アイルランドの 3 次病院の高リスク患者における基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の検出および特性評価★
Detection and characterization of extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae in high-risk patients in an Irish tertiary care hospital
N. O’Connell, D. Keating, J. Kavanagh, K. Schaffer
*University College Dublin, Ireland
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 102-107
背景
基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科細菌はグラム陰性の多剤耐性菌であり、病院環境の高リスク区域の免疫低下患者において臨床的に重要である。アイルランドでは ESBL 産生腸内細菌科細菌血流感染症が増加している。
目的
高リスク区域(集中治療室[ICU]、肝移植病棟、および血液・腫瘍内科病棟)の免疫低下患者における ESBL 産生腸内細菌科細菌の保有率を調査すること、PCR 法により検出したすべての ESBL 遺伝子の特性を評価すること、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法を用いて疫学的タイピングを行うこと。
方法
高リスク病棟の患者から採取した重複のない合計 317 の直腸スワブを匿名化して、ESBL 産生腸内細菌科細菌の保有状況のスクリーニングを行った。PCR 法を用いて ESBL 産生腸内細菌科細菌の blaCTX-M、blaTEM、blaOXA-1、および blaSHV の検出を行い、陽性分離株の特性を評価した。これらの分離株のクローン関連性を PFGE 法を用いて調べた。
結果
高リスク患者 50 例(15.8%)に ESBL 産生腸内細菌科細菌保菌が認められた。ESBL 産生腸内細菌科細菌の保有率は肝移植病棟 21.9%(28 例)、ICU 14.3%(15 例)、および血液・腫瘍内科病棟 8.3%(7 例)であった。ESBL 産生腸内細菌科細菌分離株の 70%は、2 つ以上の耐性遺伝子を保有していた。PFGE タイピングの結果、ESBL 産生大腸菌(Escherichia coli)分離株 25 株のうち 2 組の 2 株間に、また ESBL 産生エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)分離株 5 株中 4 株間に 80%を超える相同性が認められ、クローン関連性および患者間の交差伝播の可能性が示唆された。
結論
スクリーニングを実施した患者の多くに ESBL 産生腸内細菌科細菌保菌が認められた。タイピングにより、3 件の交差感染の可能性が示唆された。したがって、高リスク病棟の患者を対象とした ESBL 産生腸内細菌科細菌の適時の検出は、治療および感染制御の点で極めて重要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
ESBL 産生腸内細菌科細菌(ESBL-E)は日本においても、その検出率は増加している。本論文での高度医療を実施する病棟における ESBL-E の保菌率の高さと交差感染の少なさは、患者の持ち込み(市中感染として)と広域抗菌薬を長期に使用する病棟での抗菌薬による菌交代現象を表していると考えられる。実際、ヨーロッパでの入院患者での ESBL-E 保菌率は 5% ~ 15%と報告され、市中感染が ESBL-E の供給源となっている。アフリカでの入院患者での研究から、50%の保菌率との報告もある。PFGE により分子疫学的解析により一部の交差感染が証明できたが、PFGE は労力と時間的な面からルーチンでやれる検査ではない。一方で、アウトブレイク時には実施し、交差感染の有無を明らかにしなければならない重要な疫学調査ツールでもある。今後懸念されることは、ESBL-E の増加により、腸内細菌科細菌の治療がカルバペネム系薬にシフトすることによる、カルバペネム耐性菌の増加である。耐性菌と抗菌薬はイタチごっこである。
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