感染と曝露:再利用可能な手術器具の不十分な汚染除去に関連するインシデント報告★

2014.11.30

Infections and exposures: reported incidents associated with unsuccessful decontamination of reusable surgical instruments


P.M. Southworth*
*Health Protection Scotland, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 88, 127-131
再利用可能な手術器具は、医療施設で病原体の患者間の伝播経路になり得る。したがって、使用から次の使用までの間の汚染除去プロセスは、医療関連感染症予防の重要な要素の 1 つである。本稿では、手術器具の汚染除去の不適切、不十分、または不成功に関連するアウトブレイクおよびインシデントの報告をレビューし、世界各国の汚染除去実践に関する隠れた危険を示す。著者らの知る限り、本稿は手術器具の汚染除去不成功に関する初の総説である。医学文献データベースの Medline および Embase を系統的に検索した。手術器具の汚染除去不成功に関連するインシデントについて詳述している論文を特定した。汚染除去不成功に関連するインシデントを報告している論文 21 報を特定した。インシデントの多くは(論文の 43%)、手術器具の滅菌ではなく消毒の実践に関するものであり、各国のガイドラインの不遵守が認められた。眼の手術に用いられる器具の汚染除去不成功に関する報告が最も多かった(論文の 29%)。想定される、または確定した病原体の伝播について詳述している少数の論文では、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびマイコバクテリウム(Mycobacterium)属菌が最も多く取り上げられていた。変異型クロイツフェルト・ヤコブ病伝播の可能性があるインシデントも 1 件特定された。公表されたインシデントのみを分析したという限界があるため、過少報告の可能性(不成功事例を公表することへの抵抗感などによる)を考慮する必要がある。こうした限界はあるものの、特定した少数の論文からは、洗浄・滅菌手順を遵守していれば、再利用可能な手術器具を介する交差感染リスクは比較的小さいことが示唆されている。インシデント報告の多様性から、不成功は制度的な不備によるものではないことも示唆される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本論文は、汚染除去に起因するインシデントに関する初めての総説であるが、著者らが調査した範囲内ではわずか 21 論文しか見つからなかった。手術器具の不十分な洗浄消毒滅菌によるインシデントの報告は、氷山の一角に過ぎない。様々なバイアスがかかっており、めずらしい病原体あるいは器具でのインシデントは報告されるが、十分な原因究明がされずに放置され報告されないもの、あるいはインシデントが起こっていても気づかれていないため報告されないなどが想定される。さらに、短期入院のため医療関連感染とされていない、別の感染症により症状がマスクされてしまって気づかれていない、また、集団発生していても個々の症例として取り扱われ、相互に関連づけられていないこともあるであろう。外科手術における不十分あるいは不適切な洗浄消毒滅菌によるインシデントの報告数は、内視鏡のそれに比べるとはるかに少ない。2010 年の米国の報告では、全米で実施された外科手術の 5140 万件に対して内視鏡は 160 万件であり、頻度的には外科手術が多いことを考慮すると、もっと発生数が多くてもよいように感じる。しかしながら、外科手術における器具は再利用時には洗浄後の滅菌であり、一方、内視鏡は構造の複雑性と高レベル消毒であることが、この報告数の差の原因と推測される。ガイドライン等の遵守ができていれば発生しないインシデントである。

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