グラム陰性病原菌が形成したバイオフィルムに対する過酸化水素系消毒薬の効果の評価
Evaluation of the effectiveness of hydrogen-peroxide-based disinfectants on biofilms formed by Gram-negative pathogens
P.K. Perumal*, M.E. Wand, J.M. Sutton, L.J. Bock
*Public Health England, Microbiology Services Division, Porton Down, Salisbury, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 87, 227-233
背景
細菌の保菌および汚染を制御し、交差感染リスクの低下を図るために、過酸化水素(H2O2)系消毒薬が多くの様々な医療環境で広く用いられている。細菌汚染の優勢な形態はバイオフィルムであり、その根絶は困難であることはよく知られているが、これらの製剤の有効性試験は浮遊培養によって行われている。
目的
多剤耐性の表現型を有する 3 種類のグラム陰性病原菌のバイオフィルムを、種々の H2O2 系消毒薬を用いて効果的に根絶できるかどうかを明らかにすること。
方法
臨床分離菌株を含めて、アシネトバクター(Acinetobacter)属菌 7 株、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)7 株、および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)7 株の浮遊培養および単一種の 24 時間培養したバイオフィルムを、通常の使用濃度の H2O2 および H2O2 系製剤に 1 分から 24 時間曝露した。菌の生残を観察した。
結果
製剤化されていない H2O2 および H2O2 製剤に対する浮遊培養の感受性レベルは、検査した全菌種および株で同様であり、H2O2 の最小発育阻止濃度(MIC)は 0.5 ~ 20 mM であった。しかし、H2O2 およびその製剤に対するバイオフィルムの感受性は、最大 266 倍低かった。感受性低下の程度は、各株のバイオフィルム形成能との相関がみられ、菌種間で異なっていた。酸性有効成分を含む 2 種類の製剤は短時間の曝露で良好な効果を示したが、エタノール含有製剤は効果の発現には長時間の曝露が必要であった。
結論
多剤耐性の院内感染病原菌臨床分離株のバイオフィルムの多くは、いくつかの通常の使用濃度の H2O2 系消毒薬に対して感受性を示さなかった。このことは、このような製剤によるこれらの病原体に対する有効性を損なっていると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
多剤耐性菌の増加は医療施設関連感染においては脅威であり、患者と医療従事者間の交差感染を媒介する施設環境の清潔維持は重大な関心事である。近年、過酸化水素を利用した環境整備に関する論文が増えている。過酸化水素は、殺芽胞性をもつ広域スペクトルの消毒薬であり、液体として環境の清拭、蒸気として病室全体の消毒に使用されるなどその用途は広く、エタノールや銀などの成分が加えられた製剤も販売されている。本論文は、3 種類の耐性グラム陰性桿菌を用い、バイオフィルム産生下での各種消毒薬の効果をみている点が特徴である。バイオフィルムを形成した細菌を殺菌することは容易でないことは周知の事実であるが、バイオフィルム形成細菌に対して発育阻止には通常使用濃度よりも高い濃度が必要であることが確認された。
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