感染制御およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)除菌:ナーシングホーム職員の視点

2012.08.31

Infection control and meticillin-resistant Staphylococcus aureus decolonization: the perspective of nursing home staff


P. McClean*, M. Tunney, C. Parsons, D. Gilpin, N. Baldwin, C. Hughes
*Queen’s University Belfast, UK
Journal of Hospital Infection (2012) 81, 264-269
背景
ナーシングホームでの感染制御やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の問題は、施設の業務や方針に重要であると認識され始めている。
目的
北アイルランドのナーシングホームにおける感染制御および MRSA 除菌について、ナーシングホーム職員の視点から調査すること。
方法
ナーシングホーム管理者との半構造化面接および職員とのフォーカスグループ・ディスカッションを実施し、逐語的な文書化とフレームワーク分析を行った。
結果
1 対 1 の面接を 6 回、フォーカスグループ・ディスカッションを 6 回(参加者はそれぞれ7 名、6 名、6 名、5 名、5 名、4 名)実施した。下記の3 つの包括的要因、および相互に関連する下位要因がナーシングホームにおける感染制御および MRSA 除菌に影響することが判明した。すなわち、組織的要因(時間、財源、環境、管理、文化など)、外的要因(病院、規制、一般開業医など)、および入居者・家族である。業務量が管理できない場合は、感染制御対策が十分に遵守されず、より多くの財源が必要であることが報告された。環境を「家庭的」かつ医療的に維持することは両立せず、また痴呆がみられる入居者、一部の家族、開業医、および変化を厭う職員は、良好な感染制御実践の達成を困難にしていた。MRSA 再保菌のリスク、特に病院への入院による再保菌のリスクは、ナーシングホームにおける MRSA 除菌の推進を抑制していた。
結論
ナーシングホーム環境での感染制御と MRSA 除菌は多くの要因に影響されると考えられ、その一部は職員が直接管理することができない可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
入院することもナーシングホームに入居することもともに MRSA 保菌のリスク因子と考えられている。アイルランドでは、2051 年までにナーシングホーム入居者は現在の 1.5 倍になると考えられているが、そこでの感染管理は病院などの医療施設とは異なり、十分ではない。本論文では時間と財源がその大きな障害になっていることを示唆している。日本においても、多剤耐性菌を保菌する患者が長期療養型施設から入院してくる「持ち込み」事例は少なくない。有効な感染管理のためには、地域連携の輪を長期療養型施設を含む方向に考える時期は遠くないと思われるが、財源面での何らかの解決が必要であろう。

監訳者注:
フレームワーク分析(framework analysis):質的データの分析手法の 1 つで、本研究では(1)データの取り扱いの習熟、(2)主題の特定、(3)比較、(4)データの統合、(5)結果の記述という、独立した 5 つのプロセスからなる。

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