若年小児および高齢入院患者を対象としたウイルス性胃腸炎の季節的スクリーニング:意義はあるか?
Seasonal screening for viral gastroenteritis in young children and elderly hospitalized patients: is it worthwhile?
C.L. Borrows*, P.C. Turner
Torbay Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 87, 98-102
背景
ウイルス性胃腸炎は、特に若年小児で高頻度にみられる。成人では特に高齢者において、受診のピーク期にはアウトブレイクが発生することがある。
目的
総合病院でウイルス性胃腸炎が疑われる若年小児および高齢患者を対象とした、マルチプレックス PCR 法を用いた下痢原性ウイルスの季節的スクリーニングの意義を評価すること。
方法
2012 年の冬季に、5 歳以下の小児 200 例の糞便サンプルを用いて、マルチプレックス PCR 法によりロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、およびノロウイルスのスクリーニング、およびイムノクロマトグラフィーによるロタウイルス/アデノウイルスの同時スクリーニングを行った。また、65 歳以上の成人入院患者 195 例から検査室に提出された下痢サンプルを同様にマルチプレックス PCR 法で評価した。
結果
PCR 法により、1 種類以上の下痢原性ウイルスが小児の 56%から検出された。最も多く認められたウイルスはロタウイルスであり、サンプルの 19%から検出された。腸管アデノウイルス(下痢に関連する)はサンプルの 5%から、非腸管アデノウイルスはサンプルの 14%から検出された。アストロウイルス、ノロウイルス、サポウイルスはそれぞれ 18%、12%、10%から検出された。イムノクロマトグラフィーによるロタウイルスおよび腸管アデノウイルスの検出率はわずかに低かったが、より迅速に結果が得られた。高齢成人入院患者では、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスがそれぞれ 15%、2.5%、1%から検出された。
結論
若年小児(ロタウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス)および症状のある高齢成人(ノロウイルス)を対象とした冬季の迅速スクリーニングは、院内のウイルス伝播の抑制に寄与すると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
抄録ではわかりにくいが、本研究で検査が行われた 200 名の小児のほとんどは下痢や嘔吐などの有症状者だったようである。本結果をもって筆者らは冬季のスクリーニングが推奨されると結論づけているが、果たしてそうだろうか?
もう少し正確にいえば、本研究は 5 歳以下および 65 歳以上の消化器症状を有する患者の便を用いて各種下痢原性ウイルスの PCR 検査を行ったものである。つまり消化管感染症が疑われる患者の原因ウイルスの検査方法に関する研究であり、その結果について感染対策上の有効性の視点から議論するのは(本研究のデータからは)いささか無理がある。
今回の結果を実臨床上に応用するには、医療経済的な見地など、もう少し様々な角度からの議論が必要であろう。「検査でわかる」ことと、「それが臨床的に有効かどうか」の間には大きな溝があり、それを飛び越えるにはそれなりのデータと議論が必要である。
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