シチリアの 2 病院でアウトブレイクを起こしたカルバペネムおよびコリスチン耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)ST2 クローン株の伝播★
Spread of a carbapenem- and colistin-resistant Acinetobacter baumannii ST2 clonal strain causing outbreaks in two Sicilian hospitals
A. Agodi*, E. Voulgari, M. Barchitta, A. Quattrocchi, P. Bellocchi, A. Poulou, C. Santangelo, G. Castiglione, L. Giaquinta, M.A. Romeo, G. Vrioni, A. Tsakris
*University of Catania, Italy
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 260-266
背景
多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)による感染症は、重要な医療関連感染の 1 つであり、特に集中治療室(ICU)での問題が大きい。
目的
シチリアの 2 病院で発生したカルバペネムおよびコリスチン耐性 A. baumannii 感染症について調査すること。
方法
Italian Nosocomial Infections Surveillance in ICUs network(SPIN-UTI)プロジェクトによる 2 件の調査期間を含む 2008 年 10 月から 2011 年 5 月において、イタリア・カターニアの 2 病院の ICU で検出されたすべてのカルバペネム耐性 A. baumannii 株を前向きに収集した。寒天希釈法を用いた最小発育阻止濃度(MIC)の測定と、表現型によるメタロ β-ラクタマーゼ産生試験を実施するとともに、カルバペネム耐性遺伝子とそれに関連する遺伝因子を PCR 法とシークエンシングにより特定した。さらにパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)および複数部位塩基配列タイピング(MLST)を用いて、遺伝子型によるそれらの関連を評価した。同時に SPIN-UTI のプロトコールに準じた患者サーベイランスを行い、抗菌薬使用歴を調査した。
結果
カルバペネム耐性 A. baumannii は 26 株分離された。イミペネムとメロペネムの MIC は 4 から > 32 mg/L の範囲であり、15 株は高度コリスチン耐性(MIC > 32 mg/L)を示した。PFGE により、すべての分離株は単一のクローン型に属しており、International Clone IIの ST2 に分類されることが示された。また、これらの分離株は、内在性の blaOxA-51-like カルバペネマーゼ遺伝子である blaOxA-82 を有しており、その上流には ISAba1 が隣接していることが判明した。
結論
本稿では、2 病院でみられたカルバペネム耐性 A. baumannii 分離株がクローン的に関連しており、それが伝播・拡散している状況について述べた。分離株の半数以上でコリスチン耐性が同時に認められたことは、抗菌薬を選択するうえで重大な問題であった。これにはカルバペネムとコリスチンの使用歴が誘発因子として作用した可能性があった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
A. baumannii の伝播ルートの解明および抗菌薬耐性を考慮した治療薬の選択は、各症例・事例に遭遇するたびに直面する課題である。本報告では、直接の患者の搬送がなかった 2 つの医療機関で分離された A. baumannii が同一のクローンに属していたことが判明したが、それはすでに市中での拡散が進んでいることを意味しているのかもしれない。
本邦で分離される多剤耐性 A. baumannii は clonal complex 92 に属しているとの報告があるが、限られた地域あるいは医療機関ごとの違いについてはほとんど情報がない。分離株の保存と集約を行い、分子疫学的手法を用いた解析を継続して行える体制が望まれるところである。
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