黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のムピロシン耐性の臨床的意義★

2013.12.31

Clinical relevance of mupirocin resistance in Staphylococcus aureus


D.J. Hetem*, M.J.M. Bonten
*University Medical Center Utrecht, The Netherlands
Journal of Hospital Infection (2013) 85, 249-256
ムピロシンは、患者および医療従事者からのメチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible Staphylococcus aureus;MSSA)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant S. aureus;MRSA)の除菌や、黄色ブドウ球菌およびストレプトコッカス(Streptococcus)属菌による局所の皮膚・軟部組織感染症の治療に使用される局所抗菌薬である。ムピロシンは細菌のイソロイシル tRNA 合成酵素(IleRS)を阻害することにより、細菌の蛋白質合成を阻害する。ムピロシン軽度耐性(定義は、最小発育阻止濃度[MIC]8 ~ 256 mg/L[日本語版監訳者注:mg/L = μg/mL])は野生型 IleRS の点突然変異に起因し、高度耐性(MIC ≧ 512 mg/L)は変異した IleRS をコードしているプラスミド上に局在する mupAileS-2)が仲介する。EUCAST(European Committee for Antimicrobial Susceptibility Testing)および BSAC(British Society for Antimicrobial Chemotherapy)は黄色ブドウ球菌の場合の臨床閾値を感性 ≦ 1 mg/L、耐性 > 256 mg/L とし、感性の閾値を疫学的カットオフ値(ECOFF)としている。そのため、MIC が野生型の値(ECOFF である 1 mg/L)より高いが、耐性機序の認められない(MIC ≦ 4 mg/L)分離株の感受性は、中等度として報告される。ムピロシン耐性は、高度および軽度のいずれであっても黄色ブドウ球菌または MRSA の除菌戦略の効果を損なう。軽度耐性分離株の初回の除菌効果は、感性分離株と同程度であると考えられるが、再保菌の頻度はより高いようである。ムピロシンの使用の増加は、選択圧と交差伝播を増強することによって耐性発現をもたらす。ムシロピンの OTC 薬の乱用や、ムピロシンによる創傷や褥瘡の治療は、特に強く耐性と関連する。しかし、ムピロシンの使用増加後の耐性の発現について一貫した報告はなく、病院および市中におけるムピロシン耐性の動態にかかわるあらゆる因子を総合的に理解するには至っていない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本レビューは、タイトルにあるようにムピロシン耐性の臨床的意義を過去の論文を用いて解説したものである。レビューされた論文からは、ムピロシン使用の増加は耐性発現のリスクであり、除菌の失敗につながることが読み取られた。一方で、最近、ICU 患者への MRSA 除菌の標準化(Huang SS, et al. NEJM 2013;368:2255-2265)、市中における保菌者の除菌、術前の除菌と、今後の使用が増加することを示唆する論文もある。まずは、感染管理担当者がその使用を把握し、コントロールできる環境であることの必要性を考えさせられた。

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