スイスの大学病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染の負荷:入院期間および費用の超過
Burden of meticillin-resistant Staphylococcus aureus infections at a Swiss University hospital: excess length of stay and costs
M. Macedo-Viñas*, G. De Angelis, P. Rohner, E. Safran, A. Stewardson, C. Fankhauser, J. Schrenzel, D. Pittet, S. Harbarth
*University of Geneva Hospitals and Faculty of Medicine, Switzerland
Journal of Hospital Infection (2013) 84, 132-137
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染によって、主として患者の入院期間の延長により入院費用が増加する。
目的
スイスの大学病院における MRSA 感染症による医療経済的な負荷を、種々の解析方法により推計すること。
方法
入院期間の延長日数は以下の方法により推計した。(i)MRSA 感染を時間依存性の曝露とした多状態モデルを用いた、MRSA 感染患者と MRSA 非感染患者の比較、(ii)MRSA 感染患者と MRSA 非感染患者コホートとのマッチング。経済的影響は以下の方法により評価した。(i)入院期間の延長日数に床日あたりの費用を乗じて算出した、MRSA 感染患者と MRSA 非感染あるいは非保菌患者の費用推計値の比較、(ii)MRSA 感染患者と MRSA 非感染保菌患者の実質費用の比較。
結果
未補正の入院期間平均値は MRSA 感染患者 37.3 日、MRSA 保菌患者 33.0 日、および MRSA 非感染非保菌患者 8.8 日であった。MRSA 感染による入院期間の延長日数は多状態モデルでは 11.5 日(95%信頼区間[CI] 7.9 ~ 15)、マッチング解析では 15.3 日であった。MRSA 感染後の退院の確率は有意に低下した(補正ハザード比 0.69、95%CI 0.59 ~ 0.81)。MRSA 感染患者の床日あたりの費用平均値は、急性期病棟の一般的な入院患者集団の 1.49 倍、MRSA 保菌患者の 1.26 倍高かった。MRSA 感染による追加費用平均値は、1 日あたり約 800 スイスフランであった。
結論
今回の解析から、MRSA 感染の経済的影響が明らかとなり、時間依存性バイアスを把握することの重要性が示されるとともに、多状態モデルは MRSA 感染による入院期間と費用の超過量を推計するための妥当な手法であることが確認された。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
MRSA 感染による経済的負担の増加は病院の種類(急性期・慢性期)や治療内容により大きく異なる。この論文では、MRSA 感染・保菌を時間依存の事象と見なし、その経済的影響を検討した。結果、MRSA 感染による追加費用は 8 万円強と推定された。筆者らのモデルを用いての MRSA 感染と MRSA 保菌、MRSA 非感染非保菌に分けての検討結果は想定されるものと大きく違わなかったが、数字で示すことで説得力が増すことは明らかである。
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