院内感染型と市中獲得型のパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 の比較:コホート内症例対照研究

2012.10.31

Nosocomial vs community-acquired pandemic influenza A (H1N1) 2009: a nested case-control study


G. Khandaker*, H. Rashid, Y. Zurynski, P.C. Richmond, J. Buttery, H. Marshall, M. Gold, T. Walls, B. Whitehead, E.J. Elliott, R. Booy
*The Children’s Hospital at Westmead and The University of Sydney, Australia
Journal of Hospital Infection (2012) 82, 94-100
背景
小児の院内感染型インフルエンザの特性は十分に明らかにされていない。
目的
オーストラリアの小児における院内感染型と市中獲得型のパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009(pH1N1)の特性を比較すること。
方法
コホート内症例対照研究を実施し、2009 年 6 月 1 日から 9 月 30 日の間にオーストラリアの小児科病院 6 施設に入院した 15 歳未満の小児を対象として、院内感染型と市中獲得型の pH1N1 の臨床的および疫学的特性を比較した。
結果
入院中に pH1N1 感染が確認された患児 506 例中 47 例(9.3%)が院内感染型であった。これらの 47 例を性別と年齢をマッチさせた対照 141 例と比較した。症例群は、基礎疾患を有する割合が対照群と比較して有意に高く(81%対 42%、P < 0.001)、家庭内の喫煙者への曝露率が高かった(36%対 20%、P = 0.02)。自覚的な発熱および嗜眠などの従来のインフルエンザ症状を示す院内感染型インフルエンザの小児は少なかった。院内感染型インフルエンザの小児のほうが、オセルタミビル投与を受けた割合が高く(77%対 43%、P < 0.001)、インフルエンザ発症後の入院期間が長かった(平均 8.5 日対 4.5 日、P = 0.006)。市中獲得型群の 3 例(2%)が pH1N1 で死亡したが、院内感染型群では死亡例はなかった。
結論
本研究は、基礎疾患を有する小児や、家庭内で喫煙者に曝露されている小児は院内感染型 pH1N1 に罹患しやすいことを示している。「不顕性」の院内感染型インフルエンザに罹患している小児が存在する可能性があるが、その疾患経過は市中獲得型インフルエンザの小児と大きくは異ならない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
小児における pH1N1 の感染経路(院内感染か市中感染か)によるリスク因子の違いを調べるためのコホート内症例対照研究であり、症例、対照ともに発症者という点でユニークな研究である。オーストラリア小児サーベイランスシステムに登録された複数の病院における検査室診断陽性例をコホートとし、その中で「インフルエンザ以外の理由で入院した後、72 時間以降にインフルエンザ症状を呈した患児」を院内感染例、それ以外を市中感染例と定義し、院内感染症例 1 例に対して性別および年齢をマッチさせた市中感染症例 3 例を対照として選択し、実施された。その結果、基礎疾患とたばこの曝露がリスク因子として示された。院内感染例は市中感染例に比べてたばこに間接的に曝露されている患児が多かったが、その理由は明らかではない。この論文の著者はディスカッションの最後で、医療者が認識している以上にインフルエンザの院内感染はあるだろうと警告している。

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