シンガポールにおけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)院内感染症の経済的・臨床的影響:適合化症例対照研究★★
Economic and clinical impact of nosocomial meticillin-resistant Staphylococcus aureus infections in Singapore: a matched case-control study
S.K. Pada*, Y. Ding, M.L. Ling, L.-Y. Hsu, A. Earnest, T.-E. Lee, H.-C. Yong, R. Jureen, D. Fisher
*National University Health System, Singapore
Journal of Hospital Infection (2011) 78, 36-40
シンガポールの病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)院内感染症の直接的な臨床的・経済的影響を評価するため、前向き適合化症例対照研究を実施し、退院患者を 6 か月間追跡した。シンガポールの公立 3 次ケア病院 2 施設における MRSA 院内感染症の連続症例を、それぞれ年齢、診療科、(該当する場合には)主要な外科的手技、および Charlson 併存疾患指標で非感染症対照者 1 ~ 2 例と適合させた。カルテのレビューと被験者の問診を入院中に実施して、生存者については退院後 6 か月時も行った。分析対象とした転帰は、死亡率、入院期間、医療関連費用、および健康関連 QOL であった。健康関連 QOL の評価は、退院時に面接式 EuroQol-5D 質問票を使用して、単一の健康状態サマリーインデックスに変換して行った。転帰に関連する因子を、条件付きロジスティック線形回帰分析により特定した。症例群は 181 例、対照群は 351 例であった。MRSA 感染事例との間に独立した関連性が認められたのは、院内死亡(14.4%対 1.4%、オッズ比[OR]5.54、95%信頼区間[CI] 1.63 ~ 18.79、 P = 0.006)、長期入院(中央値 32 日 対 7 日、係数 1.21、95%CI 1.02 ~ 1.40、P < 0.001)、入院費用の増加(中央値 18,129.89 米ドル対 4,490.47 米ドル、係数 1.14、95%CI 0.93 ~ 1.35、P < 0.001)、退院後の医療関連費用の増加(中央値 337.24 米ドル対259.29 米ドル、係数 0.39、95%CI 0.06 ~ 0.72、P = 0.021)、および健康関連 QOL 低下(係数 -0.14、95%CI -0.21 ~ -0.08、P < 0.001)であった。両施設の転帰には有意差はみられなかった。シンガポールでは、個人、施設、社会に対する MRSA 感染症の影響は重要である。このような感染症を予防することにより、患者の転帰や医療の提供が大きく改善すると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
シンガポールの 3 次ケア病院において、医療関連 MRSA 感染症は入院期間を約 1 か月、入院費用を約 100 万円も延長・増加させて、患者の健康関連 QOL を有意に損なうことが示された。感染防止対策に関する医療経済的な裏付けとして重要なデータであり、わが国を含めた様々な医療の現場で必要な議論である。DPC データの活用なども検討するべきであろう。
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