メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)と「不潔な病院」に関する新聞報道★★
Newspaper reporting of meticillin-resistant Staphylococcus aureus and ‘the dirty hospital’
P. Chan*, A. Dipper, P. Kelsey, J. Harrison
*University of Sheffield, UK
Journal of Hospital Infection (2010) 75, 318-322
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)に関する英国の新聞報道には、病院が清潔でないことおよび政府や国民保健サービス(NHS)の管理不足を強調するために「不潔な病院(the dirty hospital)」という比喩表現が多用され、特有の論調がみられる。公表されているデータからは、病院の清潔度とMRSA発生率との関連を示すような主要なエビデンスは見いだされなかった。そこで著者らは、この種の報道の情報源を調査した。英国の全国紙のMRSAに関するすべての記事(2000年から2007年)のテキスト解析を行い、MRSAについて報道する際に、一般に認められている他のMRSAのリスク因子の観点よりも病院の清潔度に関する内容を取り上げているというバイアスを検索した。これを補うために、8人のジャーナリストへの取材と、2000年2月に報じられた新聞およびその他のメディア報道の詳細な時系列により、病院の清潔度とMRSAが関連づけられた理由の探索を行った。MRSAに関する新聞報道には、MRSA感染と病院の清潔度を関連づける強いバイアスが認められた。不潔な病院がMRSAの原因と見なされたことについては、2000年2月の英国会計検査院(National Audit Office)による報告にかかわるイベントが、特に重要であったと考えられる。「不潔な病院」という比喩表現は政府部門の公式な報告に由来し、これを歪曲したものであった。この表現にはある種の扇情的な作用があり、公衆に受け入れられ、一方ではジャーナリストが、他方では政治家、官僚、および大臣が使用するようになり、相互に強化されていった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
メディアの報道に関するデータを収集し分析した、医療関連感染の分野では異色の論文である。医学生12名の教育もかねて新聞報道を解析しており、大変興味深い。MRSAは病院の清潔度だけの問題ではないにもかかわらず、この面が強調されていった経緯が明らかになっている。メディアの公衆に対する影響力の大きさを再認識させられるとともに、その影響に関与しているのがメディアだけでなく政治家や官僚なども含まれることに、この問題への対処の難しさを感じる。
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