手順を定めた患者の手指消毒:市中病院のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染率への効果
Systematic patients’ hand disinfection: impact on meticillin-resistant Staphylococcus aureus infection rates in a community hospital
D. Gagne*, G. Bedard, P.J. Maziade
*Centre Hospitalier Pierre Legardeur, Canada
Journal of Hospital Infection (2010) 75, 269-272
患者とその家族が、未確認の一過性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌者として、または医療施設での伝播源として、どのような役割を果たしているかについての体系的な取り組みは実施されていない。患者やその家族の手指は、重要かつ「詳細不明の」伝播様式に関与していると考えられる。本研究の目的は、著者らの250床の市中病院でこの仮説を検証することである。1年間にわたって全患者および来院家族に、水を使用しないジェルによる手順を定めた指洗浄消毒を実施させ、院内感染率を後向きに比較した。感染制御担当者の監督下で、4名の常勤者と4名の非常勤者の参加者からなるチームに対して、全患者および来院家族に面会して、平日は連日1日2回のアルコールジェルによる手指洗浄を実践することを求めるよう指導した。全般を通じて、入院1,000件あたりのMRSA感染率、費用対効果分析、および職員の手指衛生遵守について監査を実施した。入院1,000件あたりのMRSA病院感染率は、対照年との比較で51%減少した。MRSA発生率が対照年から研究を実施した年まで一定であったと仮定すると、今回の介入により51件のMRSA感染が予防でき、それにより費用が大幅に削減されたと考えられた。従来はMRSA伝播予防を目的として、特に職員の行動に焦点が当てられていたが、潜在的な伝播様式への患者とその家族の手指衛生が見落とされていた可能性がある。手順を定めた患者とその家族の手指衛生は、MRSA院内伝播の安価で効果が高い予防策であると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
この論文の結論は、「そりゃ、言いすぎだろ?」というぐらいの思い切った論調である。まず患者自体は保菌者となりリザーバー(供給源)にもなるのであるから、患者への手指衛生教育をすれば、ある程度は水平伝播を抑えることが可能になるかもしれないが、患者対医療従事者のコンタクト様式と回数は、患者対患者のそれらと大きな開きがあると予想されるので、おそらくその効果はかなり限定されて低いのではないかと推測される。また患者家族にしても、より病院に長くいる患者本人よりも他の患者への接触回数が多いことなど考えにくい。よって、この論調を展開するのであれば、それぞれ分離された菌株のPFGE解析を行い水平伝播の可能性について議論した後とすべきである。あまり通り一遍に読んで、エビデンスがあるから「明日からうちもそうしよう」とは単純に考えないでいただきたいと思う。
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