オランダのある3次ケア病院におけるノロウイルス(2002年から2007年):若年小児例におけるGIIb株の頻繁な院内感染伝播および優位性★
Norovirus in a Dutch tertiary care hospital (2002-2007): frequent nosocomial transmission and dominance of GIIb strains in young children
M.F.C. Beersma*, M. Schutten, H. Vennema, N.G. Hartwig, T.H.M. Mes, A.D.M.E. Osterhaus, G.J.J. van Doornum
*Erasmus Medical Center, The Netherlands
Journal of Hospital Infection (2009) 71, 199-205
5年間(2002年3月から2006年7月)の冬季に3次ケア病院の患者に発生したノロウイルス感染の後向き解析を報告する。当院におけるデータを全国サーベイランスデータと比較して、ロタウイルスのデータも同様に比較した。2002年7月から2007年6月の期間に、下痢が認められた入院患者2,458例中221例(9.0%)の便検体がノロウイルス陽性であった。小児例における発生率は(ルーチン検査を開始した)2004/2005年シーズンの入院1,000例あたり2.52例から、2006/2007年シーズンの11.9例までばらつきがあったが、成人例における発生率は一定であった(平均:入院1,000例あたり1.49例)。研究期間では2種類の遺伝子型が優勢であり、GIIb株が主に2歳半未満の小児で認められたのに対して[オッズ比(OR)14.7、P<0.0001]、GII.4株はすべての年齢群に認められた。小児例ではノロウイルスのほうが、ロタウイルスより院内感染伝播である割合が高かった(59% 対 39%、OR 2.29、P<0.01)。これらの症例の中で入院患者における22件のノロウイルス集団発生が確認された。追跡検査のための検体が入手できた53例中12例ではウイルスが長期にわたって排出されていた。この論文では、大病院における散発的なノロウイルス感染例の動態パターンとして、小児例では院内感染の頻度が高く、GIIb関連株が優勢であったことを報告する。易感染性患者における散発的ノロウイルス感染例の影響を減少させるために、効果的な予防戦略が必要である。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
冬季における感染性胃腸炎ではノロウイルス感染症を念頭に置いて慎重に対応する必要がある。感染性胃腸炎の症例では環境への病原体による汚染が認められることが多く、原則的にトイレを併設した個室あるいはコホート病室への隔離管理が望ましい。患者への直接的接触を伴うケアでは標準予防策に加えて接触感染予防策の適応があり、手袋・ガウンなどの個人防護具(PPE)の使用および手指衛生の徹底が必須である。下痢症状を伴う症例では、ノロウイルスに限らず、擦式速乾性手指消毒薬の使用のみでなく、患者ケア前後における流水と石鹸による手洗いが必要である。
汚物の処理においてもPPEの着用が必要であり、吐物で環境が汚染された場合、乾燥物の浮遊から感染拡大に至る危険性があるために直ちに処理するべきである。乳幼児のケアではさらにオムツの処理があり、さらに細心な感染対策が求められる。
ドアノブや水道蛇口などのよく接触するところや共用されるトイレについては、感染性胃腸炎の症例が認められる場合、定期的に次亜塩素酸ナトリウムで処理した後に清掃するのが適当である(ただし、金属は次亜塩素酸で腐食する可能性があり、消毒の後には清拭する)。
一般的にノロウイルス感染症は症状が消失した後も約1週間は感染力があるとされる。小児例や免疫不全症例では感染性を有する期間はさらに長くなると考えるべきである。
ちなみに、ノロウイルスはGenogroup I(GI)とGenogroup II(GII)の2つの遺伝子型群に大別されて、それぞれに多様な遺伝子型と血清型を有している。冬季になるとこれらが流行を繰り返す点もインフルエンザに類似しているといえなくはない。
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