1999年から2002年のアラブ首長国連邦の三次高次病院における英国のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ガイドライン適用の経験:同一ガイドライン、異なる文化★★

2007.12.31

Experience applying the UK meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) guidelines in a tertiary referral hospital in the United Arab Emirates 1999-2002: same guidelines, different cultures


P.A. Jumaa*, P.M. Hateley, S. Bacon, F.L. Salabsalo, R. Neringer
*UAE University, UAE
Journal of Hospital Infection (2007) 67, 323-328
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、世界中にみられる重大な院内病原体である。アラブ首長国連邦(UAE)では、MRSAに関する報告がほとんどない。英国のMRSAガイドラインに準拠しているUAEの400床の三次高次病院のMRSAに関する経験を報告する。人口統計学的データおよび臨床データを含め、すべてのMRSA新規症例について以下のMRSAのデータを調査した。個室、シンク、トイレ、および浴室の数と清掃の頻度を含む病棟環境の調査、文化的相違の観察、および1床あたりの感染制御職員数。MRSAの検出率は高くはなかった。1999年から2002年にかけて、2件のクラスターを含む90例のMRSA新規症例が発生した。準拠した対処法は英国と同じであったが、英国と比較すると病院環境および患者の行動の文化的側面に相違がみられた。患者の70%以上は浴室付きの個室に入室していた。2例以上の患者がトイレまたは浴室を共有することはまれであった。病院の感染制御職員は推奨数より少なく、抗生物質の使用制限策はなかった。清掃職員は週あたり100時間以上病棟に滞在し、1日24時間迅速な対応が可能であった。MRSAの治療と管理に影響を及ぼす因子は、文化的行動や社会的行動など多数あると結論される。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
感染制御学は、人々の考えの結集であることから、すべからく文化的な行動や社会的背景の影響を反映したものになっている。よって、英国のガイドラインを直輸入しても、有効である保証はない。同様のことがCDCやAPICが発行するガイドラインを日本に導入するプロセスでもいえるであろう。どのようにすぐれた手法であっても、実施する職員のコンプライアンスが低い場合には、期待した成果が得られない。これに対しては、コンプライアンスを徹底するために教育プログラムを強化する方法があるが、全く逆のアプローチとしては、大量の資金を投入し、そこそこのコンプライアンスであっても、フェイルセーフの考えを取り入れながらインフラやシステムの総合力で制御する方法もある。後者は豊かな産油国だから可能なアプローチであるが、医療財政の危機が叫ばれている我が国では、双方の良い部分を取り入れたマネージメントの構築が必要であろう。我が国の感染制御が、一刻も早くこのことに気付いて他国に追従する路線から、第3の道を模索しはじめることが期待される。

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