ロンドンの教育病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌菌血症の強化サーベイランス ★

2006.08.31

Enhanced surveillance of meticillin-resistant Staphylococcus aureus bacteraemia in a London teaching hospital


D. Jeyaratnam*, J.D. Edgeworth, G.L. French
*St. Thomas’ Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2006) 63, 365-373
英国保健省は2001年、イングランド地方の病院にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症(血液培養陽性エピソード)のサーベイランスを強制導入した。著者らは様々な専門分野におけるMRSA菌血症の疫学研究を行うため、2001年4月から2003年3月にかけて英国の病院で強化サーベイランスを実施した。MRSAの血液培養陽性エピソードは267例あり、1,000のべ病床利用日あたりの感染率は0.37であった。33例(12.4%)は汚染による偽陽性であり、15例(5.6%)は地域社会または別の医療機関由来のものだった。31例(11.6%)は外来患者に、あるいは患者が退院した直後に発生し、「病院関連」と判定された。残りの188例は入院患者の臨床的に有意な病院感染エピソードであり、感染率は1,000のべ病床利用日あたり0.26であった。感染率が最も高かったのは集中治療室(intensive therapy unit;ITU)(1,000のべ病床利用日あたり2.74)と重症ケアユニット(high dependency unit;HDU)(1,000のべ病床利用日あたり1.68)であった。ITU、HDU以外でのエピソード55例は、菌血症の発現以前にITUまたはHDUからすでに退室していたものの、引き続き入院していた患者に起こった。ITUまたはHDUに関連するMRSA菌血症の症例数から、これらの部門がMRSA感染の拠点である可能性が示唆された。血液・腫瘍・腎臓内科の患者では病院関連エピソード数が最も多かった。MRSA菌血症の最大の発生源は血管アクセス器材であった(108例、57%、うち64%は中心静脈ライン)。ITU、HDU、および血液・腫瘍・腎臓内科の患者の菌血症感染率の高さは、血管アクセス器材の高頻度の利用と関連があった。エピソードの大多数は、入院後に新規にMRSA保菌者となった患者に起きた。このように、この病院において、血管アクセス器材とITUあるいはHDU滞在が菌血症の重大な危険因子(リスクファクター)であり、血管アクセス器材の処置と交差感染予防が最優先の介入事項である。MRSA制御に対する国家戦略のための情報提供と、医療機関の適切な比較を可能にするために、全国的な強制サーベイランス制度によるMRSA菌血症のデータのさらなる収集が推奨される。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
あくまでもMRSA菌血症についての粗発生率の統計を用いたサーベイランスであるが、国家戦略としてのMRSAコントロールが数年のスパンで上手くいっているか否かをモニターするためには有用である。しかしながら、病院間では患者母集団のリスクが異なるために、リスクで標準化しないで粗発生率を単純比較することは、病院の医療の質に対する公平な評価への遠回りになることも注意しなければならない。本政策は、国民の病院感染症への関心の高まりに合わせて、多分に政治的意図をもって立案と導入がされた経緯がある(現地の専門家のコメント)。

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