Irish-1およびIrish-2:英国で流行中の北アイルランドに関係するメチシリン耐性黄色ブドウ球菌株
Irish-1 and Irish-2: UK epidemic meticillin-resistant Staphylococcus aureus strains associated with Northern Ireland
H.M. Aucken*, G. O’Neill, M. Ganner, N. Dinerstein, M. Ali, S. Murchan
*Health Protection Agency, UK
Journal of Hospital Infection (2006) 63, 170-178
1998年以降、北アイルランド※から著者らの研究所へ照会されるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)分離株で、2つの特徴的なファージ型のどちらかに該当するものが増加している。これらの菌株を「Irish-1」および「Irish-2」と命名した。Irish-1またはIrish-2に分類された委託分離株956株の解析によると、前者の97%、および後者の95%が北アイルランドからのものであった。イングランドからのものは、それぞれ0.2%、3%のみであった。11株のIrish-2分離株は、もともと1994年に西オーストラリアで分離された流行株の典型例として、その地域から照会されてきたものであった。多くの病院から得たIrish-1ファージ型の分離株90株およびIrish-2ファージ型の分離株91株で、制限酵素SmaI消化によるパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による泳動パターン、毒素遺伝子の有無、および抗生物質感受性を調べた。PFGEでは、各サンプルのうちの数株は無関係な菌株であったが、大多数は最も主流のDNAプロファイルとの相違が6バンド以内であった。Irish-1分離株の半数は同一(homogeneous)パターンで、残りは22のDNAプロファイルを有していた。Irish-2分離株には2つの一般的なプロファイルであるD1とD2があり、分離株の3分の1のうち半々がいずれかのパターンを示したが、両者は互いに2本のバンドが異なっていた。Irish-2分離株の残りには31のDNAプロファイルがあった。クラスター解析によりIrish-1株とIrish-2株のDNAプロファイルに一部重複がみられたが、他のMRSA流行菌株※※とは明らかに異なっていた。PFGEプロファイルと、抗生物質耐性パターンまたは毒素遺伝子保有のいずれかとの間に、明確な相関はなかった。Irish-1分離株は3株を除いてすべてが、ブドウ球菌エンテロトキシンA(sea)遺伝子のみを保有していたが、Irish-2分離株のほとんどすべては、12のエンテロトキシン遺伝子すべてが陰性であった。Irish-2分離株の69%が、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、およびストレプトマイシン耐性であり、一方Irish-1分離株の90%は、これらすべてに加え、ゲンタマイシンとムピロシンに耐性があった。すべての分離株はキヌプリスチン・ダルホプリスチン合剤、テイコプラニン、およびバンコマイシンに対して感受性であった。ウレアーゼ産生は両株で陰性であった。今回の結果から、Irish-1およびIrish-2は互いに異なる流行菌株で、ファージ型、DNAプロファイル、抗生物質耐性、および毒素遺伝子保有により識別可能であることを示唆している。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
北アイルランドで流行しているIrish-1とIrish-2の株は、イングランドとウェールズ、あるいはスコットランドのepidemic MRSA(EMRSA)と異なっていることの報告である。MRSAがどのように拡大しているかの疫学に有益な情報である。
監訳者注:
※北アイルランド:一般にイギリスと大雑把にくくっているが、歴史的にイングランドとウェールズは2つの王国が大昔に併合したので、1つの行政府として存在している。またスコットランドもかつては王国であったが、現在は独自の議会をもち独立した行政府である。これに北アイルランド王国が独立した行政府として存在している。これら4つの王国が連合して、連合王国(United Kingdom)を形成している。よって、英国には3つの行政府が存在し、それぞれに流行株の定義がある。それぞれの国の流行株は、同一の株を違うように命名しているわけではないことに注意する。
※※MRSA流行菌株:Epidemic MRSA strains(MRSA流行菌株)は、英国を中心として用いられている流行株についての総称で、発見された順にEMRSA-1から始まり現在はEMRSA-17まで分類されている。現在はEMRSA-15と-16が主要な流行株で、EMRSA-3が続いている。EMRSA-17は、テイコプラニンの感受性が低下している株で、グリコペプチド中間黄色ブドウ球菌(glycopeptide intermediate Staphylococcus aureus;GISA)にあたる。
同カテゴリの記事
Meticillin-resistant Staphylococcus aureus screening in obstetrics: a review
Mortality and Gram-negative rod bacteraemia in the intensive care unit
A two-stage algorithm for Clostridium difficile including PCR: can we replace the toxin EIA?
Incidence of healthcare-associated infections in a tertiary care hospital: results from a three-year period of electronic surveillance
Healthcare workers’ attitudes to how hand hygiene performance is currently monitored and assessed
K-R. Cawthorne*, R.P.D. Cooke
*Swansea University, UK
Journal of Hospital Infection (2020) 105, 705-709