2004ロウベリーレクチャー(2004 Lowbury Lecture):西オーストラリア州でのバンコマイシン耐性腸球菌流行の経験-集団発生から継続的制御へ ★★

2006.05.31

2004 Lowbury Lecture: the Western Australian experience with vancomycin-resistant enterococci 窶・from disaster to ongoing control


J.W. Pearman*
*Royal Perth Hospital, Australia
Journal of Hospital Infection (2006) 63, 14-26
2001年7月、西オーストラリア州(WA)で初のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の病院内集団発生がロイヤル・パース病院で始まり、初期には集中治療室および腎臓内科および血液透析部門が発生の舞台となった。集団発生の病原菌はvanB型のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(VREF)であった。分離菌株のパルスフィールドゲル電気泳動およびプラスミド解析から単一菌株による集団発生であることが示された。保菌者の隔離およびVREの制御に推奨されているあらゆる予防策の追加的な導入にもかかわらず、VREFは急速に拡大した。初発患者の発見から2カ月後には、この流行菌株は22カ所の病棟および部門、および1カ所の外来部門(サテライト透析施設)に広がった。4例の患者が感染症を発症し、64例が保菌していた。
 この集団発生を根絶して、この流行菌株が病院の常在株になることを防ぐため、院長、臨床部長、および看護部長を含む院内VRE実行委員会を結成した。下記に挙げた高い費用を要する高度な感染制御策を当病院が実行できるよう、西オーストラリア州保健省は高額な臨時の財政支援に応じた。
 1.すべての陽性患者および病棟内接触患者を、それぞれ別の病棟にまとめ、各コホートには専任の看護師を配置。
 2.VREF保菌者の総数を特定するために、全入院患者(既知の曝露のない病棟内接触者)のスクリーニングを1週間の間に行った。これまで知られていなかった39例の保菌者が見つかった。
 3.集団発生期間中のVRE検出病棟専任の清掃サービスの確立。
 4.保菌者が退院した後の最終的な清掃の有効性を点検するための、最終清掃・消毒後の環境培養。
 5.VREF保菌者および病棟内接触者のカルテへの電子標識の貼付。
 6.退院後の病棟内接触者のスクリーニング。
 7.高齢のVREF保菌者および病棟内接触者の退院時における居住型介護施設への特別手配。
 VREの同定は、従来の検査方法では4~5日を要するため感染制御には限界があり、保菌者が発見および隔離される前に環境のコンタミネーション発生や院内伝播が起こる可能性があった。選択的24時間増菌培養液を直接用いてvanAおよびvanB遺伝子のPCRを行うことにより、30~48時間以内にVREの暫定的な迅速同定を行う検査法が開発された。
 90%を超える保菌者を検出するためには、異なる日に集めた平均4回の直腸スワブが必要であった。
 合計1,977名の病棟内接触者を退院後にスクリーニングし、54名(2.73%)がVREFを保菌していることが明らかになった。病棟内接触者のカルテへの電子標識の貼付および能動的な追跡調査の結果、著しい数の保菌者が発見された。もし彼らが再入院した場合、病院でさらに集団発生が生じる危険性があった。
 5カ月後に集団発生は終息し、高度な感染制御の実施に要した費用は2,700,000オーストラリアドル(1,000,000ポンド)であった。
 対象を絞った能動的監視培養によって継続的制御が促進されている。監視培養は、ハイリスク部門(集中治療室、熱傷病等、腎臓内科、血液科、骨髄移植室)への入院時および集中治療室からその他の院内部門への転室時に実施したほか、透析室への定期的通院患者に対する月1回のスクリーニングおよびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)培養および毒素検出用に提出された入院患者の大便サンプルの任意検査スクリーニングであった。
 パースの地域社会にはVREF流行株が依然として認められ、警戒を維持する必要がある。最初に集団発生した病棟内接触者が2つの病院で小規模の集団発生を引き起こし、最初の集団発生から毎年7~19名の新たな保菌者が散発的に発見されている。
 VRE制御プログラムの主要な要素は以下のとおりである。
 1.病院の高リスク部門の患者に対する対象を絞った能動的監視培養。
 2.選択的24時間増菌培養液を直接用いる多重PCRによるVREの暫定的な迅速同定。
 3.既知の保菌者およびスクリーニングを受けていない病棟内接触者の、集団発生時の接触隔離。
 4.既知の保菌者およびスクリーニングを受けていない病棟内接触者の、集団発生時のカルテへの電子標識貼付。
 5.高度な感染制御の施行による病院での単一株(流行株)の集団発生の根絶。
 6.流行株を同定し、その疫学を追跡するための、西オーストラリア州での新たな全保菌者に由来するVRE分離株型別のサーベイランス。
 今日までこのプログラムは西オーストラリア州の全病院でVREの定着を防止している。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
Lowbury LectureはEdmund Joseph Lister Lowbury教授の感染制御に関する長年にわたる顕著な功績を記念して英国病院感染学会(HIS)が1980年に設立した。この講演は2004年11月24日に感染症関連連合学会(Federation of Infection Societies)第11回年次集会で発表された。アウトブレイク制圧の具体的な道筋が解説されている。
監訳者注:
2,700,000オーストラリアドル(1,000,000ポンド)は約2億円。

同カテゴリの記事

2015.02.27

Achromobacter bacteraemia outbreak in a paediatric onco-haematology department related to strain with high surviving ability in contaminated disinfectant atomizers

2020.11.30

Potential infection control risks associated with chilled beam technology: experience from a UK hospital
T. Inkster*, C. Peters, H. Soulsby
*Queen Elizabeth University Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 613-616

2016.06.23

Environmental decontamination following occupancy of a burns patient with multiple carbapenemase-producing organisms

2015.07.31

Detection of Escherichia coli sequence type 131 by matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry: implications for infection control policies?

2013.07.31

Humans, ‘things’ and space: costing hospital infection control interventions

JHIサマリー日本語版サイトについて
JHIサマリー日本語版監訳者プロフィール
日本環境感染学会関連用語英和対照表

サイト内検索

レーティング

アーカイブ