高齢者急性期病院における呼吸器ウイルスを対象とした排水ベースのサーベイランス:パイロット研究★
Wastewater-based surveillance of respiratory viruses in a geriatric hospital: a pilot study R. Grant*, M.-C. Zanella, C. Gan, M. Pitton, V. Lachat, C. Ort, C. Graf, S. Harbarth, T.R. Julian, M. Abbas *Geneva University Hospitals and Faculty of Medicine, Switzerland Journal of Hospital Infection (2026) 171, 1-10
目的
排水ベースのサーベイランス(WBS)は、地域社会における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)、インフルエンザウイルスおよび RSウイルスの循環について理解するための情報を提供してくれるが、病院環境における WBS の使用は依然として限られている。本研究は、スイスの高齢者急性期病院において WBS を用いて、病院排水中の SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス(A / B)および RS ウイルス のウイルス量と、患者における感染症との間の動態を理解することを目的とした。
方法
WBS を用いた前向き研究を、老人病院で中央処理される病院排水から週当たり 7 日間 24 時間にわたり収集した複合サンプルを対象に実施した。SARS-CoV-2、インフルエンザ A / B ウイルスおよび RSウイルスのウイルス RNA 濃度を、デジタル逆転写 PCR を用いて測定した。ケンドールの順位相関係数(τ)および相互相関関数を用いて、ウイルス RNA 量と、入院患者における SARS-CoV-2、インフルエンザ A / B ウイルスおよび RSウイルスによる感染症との相関およびラグタイムを評価した。
結果
2024 年 10 月 14 日から 2025 年 4 月 19 日にかけて、排水サンプル 166 個を収集した。排水中のウイルス量と感染症との関連は、SARS-CoV-2(τ = 0.29、95%信頼区間[CI]0.19 ~ 0.39、P < 0.01)、インフルエンザ A ウイルス(τ = 0.36、95%CI 0.25 ~ 0.44、P < 0.01)および RSウイルス(τ = 0.48、95%CI 0.38 ~ 0.57、P < 0.01)で有意かつ陽性であった。医療感染感染症に限定した感度分析では、排水中のウイルス量と患者における感染症との関連は、SARS-CoV-2(τ = 0.32、95%CI 0.23 ~ 0.41、P < 0.01)、インフルエンザ A ウイルス(τ = 0.24、95%CI 0.12 ~ 0.34、P < 0.01)および RSウイルス(τ = 0.37、95%CI 0.27 ~ 0.47、P < 0.01)で依然として有意かつ陽性であった。排水中のウイルス量の増加は、SARS-CoV-2およびインフルエンザ A ウイルスによる医療関連感染の報告の増加に、それぞれ約 3 ~ 5 日先行して認められた。
結論
WBS は、病院環境における呼吸器ウイルスの循環に対する、補完的な早期警告システムとして使用できる可能性がある。
監訳者コメント :
スイスのジュネーブにある 260 床の急性期高齢者病院において、病院排水を用いた下水サーベイランスを実施したところ。地域流行だけでなく、病院内の呼吸器ウイルス院内感染を反映することが明らかとなった。特に、SARS-CoV-2 のみならず、インフルエンザ A および RSV についても排水中ウイルス RNA 量と入院患者の感染発生数に有意な正の相関が認められたことは重要である。さらに、排水中ウイルス量の増加が、医療関連 SARS-CoV-2 感染では約 3 日、インフルエンザ A 感染では約 5 日先行したことから、院内流行の早期警戒指標として活用できる可能性が示された。得られた排水データを利用して、どの時点でマスク着用強化や検査拡大に結びつけるかという実装研究が求められている。
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