伝播に基づく予防措置の実施に対して COVID-19 パンデミックが及ぼした影響
Impact of COVID-19 pandemic on the implementation of transmission-based precautions K. Yap*, K.Z. Linn, A.Y. Lim, X. Huan, N.B. Han, L. Sun, S.H. Tan, K.C. Thoon, B.S.P. Angj, M.L. Ling, S.K. Pada, A.Ty, D. Fisher, K. Marimuthu *Tan Tock Seng Hospital, Singapore Journal of Hospital Infection (2025) 162, 76-83
背景
多剤耐性微生物および病院獲得感染症は、患者の安全を脅かしている。伝播に基づく予防措置は、極めて重要な感染予防・制御(IPC)方策であるが、多くのリソースを必要とする。COVID-19 パンデミックは、パンデミック対応のためのリソース転用、システムの負担、ならびに対象病原体に対する伝播に基づく予防措置に対する障害により、ルーチンの IPC 実践に混乱をもたらした。
目的
2020 年 8 月から 2021 年 8 月までの期間に、COVID-19 パンデミックの前(サイクル 1)および最中(サイクル 2)について、シンガポールの急性期病院 5 施設において特定の病原体を対象とした伝播に基づく予防措置の実施に対して COVID-19 パンデミックが及ぼした影響を検討すること。
方法
主要転帰は、特定の病原体を対象とした伝播に基づく適切な予防措置を受けていた患者の割合とした。2 サイクルの間の変数を比較して、特定の病原体を対象とした IPC 方策の実施に対して COVID-19 の影響を評価した。
結果
計 8,601 件の患者記録を精査した(サイクル 1 は 4,132 件、サイクル 2 は 4,469 件)。伝播に基づく予防措置の適切な実施は、サイクル 2 ではサイクル 1 と比較して 39%減少した(オッズ比[OR]0.61、95%信頼区間[CI]0.50 ~ 0.73、P < 0.01)。対象病原体に対するスタッフの無自覚が、いずれのサイクルにおいても伝播に基づく予防措置の不適切な実施に寄与した最も多くみられた因子であった。特記すべきこととして、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染患者のみで、サイクル 2 において伝播に基づく予防措置の適切な実施の有意な減少が認められた(OR 0.56、95% CI: 0.44 ~ 0.71、P < 0.01)。興味深いことに、パンデミック前に伝播に基づく予防措置の遵守率がより高かった病院では、パンデミックの最中もより高い遵守率を維持していた。
結論
シンガポールの急性期病院において、COVID-19 パンデミックは、伝播に基づく適切な予防措置の実施に有害な影響を及ぼしていた。本研究は、公衆衛生の緊急事態の際には、先を見越した伝播に基づく適切な予防措置の維持が必要であることを示している。
監訳者コメント:
タイトルからは「コロナが接触予防策に与えた影響」を広く検討したように読めるが、実際に評価しているのは接触予防策の掲示状況と個室隔離の適切性である。日本でも流行期には教育がコロナ一色となり、薬剤耐性菌対策などの教育が手薄になった経緯がある。こうした教育上の偏りも、一因として考えられる。
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