戦争負傷者の治療を担うウクライナの救急病院における医療関連感染と抗菌薬の使用:2024 年の多施設横断的研究

2025.08.02

Healthcare-associated infections and antimicrobial use in Ukrainian acute care hospitals involved in treatment of casualties of war: multi-centre cross-sectional study in 2024

A. Vodianyk*, E. Diomin, A. Husakov, I. Havrilov, A. Horbachevskyi, J. Habicht
*World Health Organization Country Office in Ukraine, Ukraine

Journal of Hospital Infection (2025) 162, 333-338

背景

ウクライナにおける医療関連感染(HAI)の真の負担は依然不明である。2021 年にウクライナの病院を対象とした HAI と抗菌薬の使用(AMU)に関する点有病率のパイロット調査(PPS)が実施されたが、データは限定的で、2022 年のロシア侵攻に伴う HAI の負担の変化は表されていない。そのため、2024 年に、ウクライナにおける HAI の負担を理解するための HAI と AMU に関する PPS を5 カ所の医療施設で実施した。

方法

本研究は、多施設横断的研究として実施した。4 カ所の救急 3 次病院と 1 カ所の専門施設が本研究に参加した。外科病棟、集中治療室(ICU)および内科病棟の全年齢の患者を対象とした。病棟ごとに 1 日のデータを収集し、研究全体の期限は 1 か月とした。HAI の症例定義および PPS の手順は、欧州疾病予防管理センターの最新の文書を参考にした。

結果

計 660 例の患者が本研究の対象となった。83 例に 91 件の HAI が認められ、HAI の点有病率(pp)は12.6%であった。37 件(40.7%)の HAI は入院時に認められ、54 件(59.3%)は当該入院中の感染であった。HAI の種類として最も多かったものは手術部位感染(50.5%)であり、次いで肺炎(12.1%)、皮膚および軟部組織感染(9.9%)、尿路感染(6.6%)、血流感染(5.5%)、全身感染(5.5%)であった。HAI の有病率が最も高かったのは ICU(51.9% pp)であり、次いで外科病棟(12.1% pp)であった。最も多かった菌はアシネトバクター(Acinetobacter)属菌(22.4%)とクレブシエラ(Klebsiella)属菌(22.4%)であった。すべての HAI 病原菌は、第 3 世代セファロスポリン、グリコペプチドおよびカルバペネムに対して非常に高い耐性(66 ~ 100%)を示した。抗菌薬の使用が最も多かったのは ICU であった(88.9% pp)。

結論

この研究により、ウクライナの病院における、欧州の平均よりも高い HAI の有意な有病率が明らかになった。AMU 率は欧州と同程度であったが、ICU での使用が不釣り合いに多かった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

災害時医療における感染制御の脆弱性を浮き彫りにした報告で、日本の災害医療計画においても平時の感染対策・感染症診療をどう維持するか、簡易で効果的な手順の標準化や抗菌薬適正使用の継続体制の構築を検討する機会の参考になる。

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