乱流混合換気および一方向流型換気を備えた室内における手術器具準備中の空中細菌の比較 — 実験的研究

2025.07.19

Comparison of airborne bacteria in rooms with turbulent mixing ventilation vs unidirectional airflow during the preparation of surgical instruments — an experimental study

E. Torbjörnsson*, C. Olivecrona, A. Lööf Ngo, A. Tammelin
*Södersjukhuset, Karolinska Institutet, Sweden

Journal of Hospital Infection (2025) 161, 13-18

背景

手術器具は、病原体の運び役となり、手術部位感染症を引き起こすこともある。手術室では、空中細菌による滅菌野および器具の汚染を防止するために、様々なタイプの換気システムが用いられている。どの換気システムが最適な状態を作り出すのかに関しては、決定的な結果が得られていない。

目的

乱流混合換気(TMV)および一方向流型換気(UDAF)を備えた準備室において、手術器具の準備中の空中細菌数を検討した。

方法

本研究は、スウェーデン・ストックホルムの Södersjukhuset で新たに建てられた手術室において実施した。吸気量 700 L/秒または 1,200 L/秒の TMV を備えた準備室と、吸気量 700 L/秒の UDAF を備えた準備室において、コロニー形成単位(CFU)/m3を測定した。

結果

TMV を備え、気流を 700 L/秒に設定した準備室では、CFU/m3 air の平均値は 0 ~ 104.5 であった。気流を 1,200 L/秒に調整すると、CFU/m3 air の平均値は 0 ~ 5.5 であった。UDAF を備えた準備室では、CFU/m3 air の平均値は 0 ~ 7 であった。700 L/秒の気流では、2 室の差が有意であった(P < 0.006)。TMV を備えた準備室の気流を 1,200 L/秒に増加させると、TMV と UDAF の間に有意差は認められなかった(P = 0.443)。

結論

手術器具準備中の準備室における空中細菌数の差を検討したこの実験的研究により、700 L/秒の気流では、UDAF を備えた準備室の方が、TMV を備えた準備室より CFU/m3 air が有意に低値であることが示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

一方向流(UDAF)は、比較的低い風量で高い清浄度を達成できるが、その効果は天井中央から供給される清浄空気によって形成される「保護ゾーン」内に限定される。このため、汚染リスクを避けるには手術器械台を必ずその範囲内に配置する必要があり、運用面での柔軟性に制約が生じる。一方、乱流方式(TMV)は、室内全体を比較的自由に使用できる利点を有するものの、UDAF と同等の清浄度を確保するにはより高い風量が求められ、結果としてエネルギーコストが増加する。本研究は、手術器械準備室における空調方式の選択が、「清浄度」「エネルギーコスト」「運用上の柔軟性」という三要素の間に存在するトレードオフであることを定量的に示したものであり、いずれか一つの要素のみで最適な方式を決定することは困難であることが分かる。

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