新たな EUCAST 感受性定義による超広域抗菌薬使用の増加を防止するためのバンドルの実施成功例:3 次病院における準実験的研究
Successful implementation of a bundle to prevent increased excessive-spectrum antimicrobial use under new EUCAST susceptibility definitions: a quasi-experimental study in a tertiary hospital P. Duch-Llorach*, A.F. Simonetti, A. Figueras-Roig, A. Rivera, E. Fernández de Gamarra‑Martínez, L. Gras-Martin, M-E. Moreno-Martinez, J. Ruiz Ramos, B. Zarate-Tamames, F. Navarro, J. López-Contreras, L. Escolà-Vergé *Hospital de la Santa Creu i Sant Pau, Spain Journal of Hospital Infection (2025) 161, 1-9
背景
本研究では、2019 年の EUCAST 感受性カテゴリー再定義の導入を受け、野生型緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、PA)感染に対する標的治療薬としての超広域抗菌薬の増加を防止するための実施バンドルの効果を評価した。
方法
本研究は、3 次大学病院における単一施設準実験的研究であった。2023 年 7 月から 2024年4 月までの、野生型 PA 感染を有する連続するすべての成人患者を対象とし、EUCAST 改訂前の期間(第 1 期)、改訂後の監査フィードバックありの期間(第 2 期)、改訂後の監査フィードバックなしの期間(第 3 期)の各 3 か月にわたり解析した。実施バンドルには、(1)再定義の導入前の対面での教育セッション、(2)抗菌薬感受性報告書において「I」を「SE」に置き換え、明確にするための脚注と投与に関する情報を付記することが含まれた。監査フィードバック介入は、再定義導入後の最初の 3 か月間に実施した。抗菌薬感受性検査結果の選択的報告は、当院ですでに実施していた。主要アウトカムは、標的治療薬としてのメロペネムおよびセフトロザン/タゾバクタムの処方などとし、副次的アウトカムは、最適な抗緑膿菌薬投与および感染症(ID)コンサルテーションとした。
結果
患者 158 例(第 1 期 55 例、第 2 期 60 例、第 3 期 43 例)において、標的治療薬としてのメロペネム処方の増加は認められなかった(7.3% 対 6.7%[P = 0.898] 対 0% [P = 0.071])。標的治療薬としてセフトロザン/タゾバクタムの処方を受けた患者はいなかった。ID コンサルテーションは減少し(56.4% 対 38.3%[P = 0.053] 対 34.9%[P = 0.034])、適切な抗緑膿菌薬投与は増加した(70.9% 対 93.3%[P = 0.002] 対 95.3%[P = 0.002])。標的治療薬としてのメロペネム処方のリスク因子は、65歳未満、免疫抑制、敗血症性ショック、集中治療室入室、経験的な超広域抗菌薬使用などであった。
結論
この実施バンドルは、標的治療薬としての超広域抗菌薬または ID コンサルテーションを増加させることなく、投与を最適化しながら、EUCAST 感受性カテゴリー再定義の導入を可能にした。
監訳者コメント:
抗菌薬の適正使用において、Diagnostic Stewardship、とりわけ薬剤感受性検査結果の報告は大きな役割を持つ。これには cascade/selective reporting 等の手法が知られているが、より本質的には S/I/R という判定自体が特定の用法・用量を前提としており、その情報を臨床医へ正確に伝達することが不可欠である。本研究では、「I」を「SE」と表記し、前提となる用法・用量へのアクセスを担保する工夫と、事前教育をバンドル化した。このアプローチが、抗菌薬選択の適正化(メロペネム使用7.3%→0%)と、用法・用量の適正化(遵守率70.9%→95.3%)という具体的な成果に繋がった。検査結果の「見せ方」と、その根拠となる知識の伝達を組み合わせることが、適正使用推進の鍵となることが分かる。
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