長期ケア施設入居者における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌目細菌保菌のリスク因子:欧州における多施設共同前向きコホート研究★★
Drivers of extended-spectrum β-lactamase (ESBL)-producing Enterobacterales colonization among residents of long-term care facilities: a European multicentre prospective cohort study S. Göpel*, J. Guther, B.P. Gladstone, N. Conzelmann, S. Bunk, T. Terzer, T.D. Verschuuren, D. Martak, E. Salamanca Rivera, I.B. Autenrieth, S. Peter, J.A.J.W. Kluytmans, D. Hocquet, J. Rodriguez-Baño, E. Tacconelli; MODERN WP1 Study Group *University Hospital Tübingen, Germany Journal of Hospital Infection (2025) 157, 67-74
背景
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌目細菌(ESBL-PE)は、長期ケア施設(LTCF)における保菌率が高い。LTCF における ESBL 産生大腸菌(Escherichia coli)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の獲得率を推定するため、また臨床および環境のリスク因子を特定するため、ドイツ、フランス、スペイン、およびオランダの LTCF計 6 施設において多施設共同前向きコホート研究を実施した。
方法
入居者に対して32 週間にわたり縦断的スクリーニングを実施し、疫学データおよび臨床データ、ならびに環境サンプルを収集した。主要転帰評価項目は、LTCF 入居者における ESBL-PE の新規獲得率とした。全ゲノムシークエンシングを用いて分子疫学的解析を行い、またロジスティック回帰モデルおよび ポワソン回帰モデルを用いてリスク因子解析を行った。
結果
追跡調査中に、合計で入居者 299 例からサンプル 1,958 個が得られた。ベースラインにおける ESBL-PE 保菌率は16.4%、ESBL-PE 獲得率は入居者 1,000 人日あたり 0.79 で、いずれも LTCF によって大きなばらつきが認められた。ベースラインにおける保菌のリスク因子は、年齢80歳以上、血管疾患、研究の前年中における抗菌薬使用であった。手指消毒薬の不足ならびに入居者あたりの看護師数が少ないことは、ESBL-PE 保菌と、医療機器の存在は、ESBL-PE 獲得リスクとそれぞれ関連した。複数の配列タイプ(ST)保菌と関連した因子は血管疾患、片麻痺、抗菌薬使用、専用バスルームが利用できないであった。環境サンプルにおける ESBL-PE の検出率は 2%で、入居者における保菌率が高い LTCF に限られていた。ゲノム解析から、2 施設で ST10 大腸菌および ST405 肺炎桿菌の検出率が高いことが示された。
結論
LTCF において手指消毒薬が利用可能であることなどの感染対策や、入居者あたりの看護師数、抗菌薬の適正使用は、ESBL-PE を制御する上で重要な方策である。ゲノムベースのサーベイランスは、標的を絞った介入の指針となり得る。
監訳者コメント:
本研究は、長期ケア施設(LTCF)における ESBL 産生腸内細菌目細菌(ESBL-PE)の保菌リスク因子を多施設共同で検討した点で、日本の介護施設にも示唆を与える。日本の LTCF でも高齢化が進み、抗菌薬使用や医療機器の使用が増加する中、ESBL-PE の伝播リスクは無視できない。手指消毒薬の適正使用や接触予防策、看護・介護スタッフの適正配置の他、ESBL-PE 治療における抗菌薬適正使用推進や多発事例などにおけるゲノム解析を活用したサーベイランスの導入は日本でも感染制御に有用と考えられる。今後、日本の施設特有の環境要因を考慮した調査と、施設ごとに適した感染対策の強化が求められる。
同カテゴリの記事
An intensive care unit outbreak with multi-drugresistant Pseudomonas aeruginosa ‒ spotlight on sinks V. Schärer*, M-T. Meier, R.A. Schuepbach, A.S. Zinkernagel, M. Boumasmoud, B. Chakrakodi, S.D. Brugger, M.R. Fröhlich, A. Wolfensbergera, H. Sax, S.P. Kuster, P.W. Schreiber *University Hospital Zurich and University of Zurich, Switzerland Journal of Hospital Infection (2023) 139, 161-167
Evaluation of a peracetic-acid-based sink drain disinfectant on the intensive care unit of a tertiary care centre in Belgium R. Vanstokstraeten*, B. Gordts, N. Verbraeken, L. Blommaert, M. Moretti, D. De Geyter, I. Wybo *Vrije Universiteit Brussel (VUB), Universitair Ziekenhuis Brussel (UZ Brussel), Belgium Journal of Hospital Infection (2024) 154, 45-52
The effects of chlorhexidine, povidone-iodine and vancomycin on growth and biofilms of pathogens that cause prosthetic joint infections: an in-vitro model V.E. Coles*, L. Puri, M. Bhandari, T.J. Wood, L.L. Burrows *McMaster University, Canada Journal of Hospital Infection (2024) 151, 99-108
2004 Lowbury Lecture: the Western Australian experience with vancomycin-resistant enterococci 窶・from disaster to ongoing control