緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による医療関連血流感染症における環境の役割の評価:1 年間の前向き調査
Assessing the role of environment in Pseudomonas aeruginosa healthcare-associated bloodstream infections: a one-year prospective survey M. Virieux-Petita*, J. Ferreira, A. Masnou, C. Bormes, M-P. Paquis, M. Toubiana, L. Bonzon, S. Godreuil, S. Romano-Bertrand *University Hospital of Montpellier, France Journal of Hospital Infection (2025) 156, 26-33
背景
医療関連緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による定着/感染について正確な感染源とパターンを解明することは、予防と制御の戦略を定義する上で極めて重要である。
目的
3 次医療施設において 1 年間にわたって緑膿菌(P. aeruginosa)による院内血流感染症(Pa-BSI)における病院環境の役割を前向きに調査する。
方法
入院後 48 時間以上を経過してから Pa-BSI を発症した患者の臨床記録を調査し、BSI が院内感染であること、侵入経路とリスク因子を調査した。環境調査を実施し、ケアの経路に沿って緑膿菌(P. aeruginosa)の感染源/保菌源を追跡した。臨床分離株と環境分離株について全ゲノムシークエンシング(WGS)により比較し、院内環境から患者への汚染経路を特定した。
結果
患者 49 例における BSI エピソード 53 件が院内感染と判定された。ほとんどが男性(73%)で、平均年齢は 62.4 歳、40%以上の症例で免疫抑制状態にあり、症例の 92%が、BSI の発症の前に抗菌薬投与を受けていた。BSI の発症は、平均で入院から 27 日後であった。主な侵入経路は尿路(30%、症例の 3 分の 2 がカテーテル留置症例)と皮膚(17%、症例の 約 80%がカテーテル関連)であった。緑膿菌(P. aeruginosa)は、調査 49 件中 16 件で検出され、陽性サンプルは 34 であった。その内訳はシンク排水管の 54%、水の 23%、蛇口のエアレータの 20%であった。環境分離株と臨床分離株の間に疫学的関連性が確立されたのは院内感染 BSI の 15%を占める患者 8 例のみであった。
結論
病院環境は緑膿菌(P. aeruginosa)による医療関連感染症の主要な感染経路と通常考えられているが、これが院内感染 BSI の原因として同定されたのは患者のわずか 15%においてのみであった。水および病院環境の管理が実施されて以降、緑膿菌(P. aeruginosa)は市中感染の病原体となり、院内感染を引き起こすようになったという仮説をたてられるかもしれない。
監訳者コメント:
本研究は緑膿菌の医療関連感染(HAI)における位置づけが、「市中感染(community-acquired infection)としての側面を持つ菌」に変化している可能性を示唆した報告である。すなわち過去の研究で主張されてきた「院内の水回りが緑膿菌の主な感染源である」という考えに対し、病院内の水環境管理が強化された結果、新たな疑問を投げかける結果となったもので、新規性がある。例として長期介護施設の入居者や、抗菌薬使用歴のある患者が緑膿菌をすでに保菌していることがあげられるが、今後の緑膿菌の感染予防対策として、病院環境の管理だけでなく、患者の腸内細菌叢や口腔内細菌のキャリア状態を考慮した管理が必要になる可能性 がある。また市中感染が増加している場合、従来の「院内感染対策」の枠組みでは十分でなく、地域レベルでの感染制御戦略が求められる。
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