Barts外科感染リスク(B-SIR)ツール:外部検証、ならびに心臓手術後の手術部位感染症を予測するための既存ツールとの比較
The Barts Surgical Infection Risk (B-SIR) tool: external validation and comparison with existing tools to predict surgical site infection after cardiac surgery R. Magboo*, J. Cooper, A. Shipolini, G. Krasopoulos, B.H. Kirmani, E. Akowuah, H. Byers, J. Sanders *St Bartholomew’s Hospital, Barts Health NHS Trust, UK Journal of Hospital Infection (2025) 156, 113-120
目的
Barts 外科感染リスク(B-SIR)ツールのこれまでの開発および内部検証を受け、本研究ではB-SIR ツールの外部妥当性を調査し、オーストラリア臨床リスク指数(ACRI)および ブロンプトン・アンド・ヘアフィールド感染スコア(BHIS)と比較することを目的とした。
研究デザインおよび設定
本多施設共同後向視的解析では、2018 年 1 月から 2019 年 12 月の間に心臓手術を受けた成人(年齢 18 歳以上)患者を対象に事前に収集された地域データを使用した。パンデミック前のデータは、標準的診療を反映するものとして使用された。曲線下面積(AUC)は、各スコアの予測能を検証・比較するために使用され、キャリブレーションは HosmereLemeshow 検定およびキャリブレーションプロットを用いて評価した。
結果
3 施設のセンターから計 6,022 例の患者が完症例分析に組み入れられた。平均年齢は 66 歳で、性別は男性が75%、3.19%が手術部位感染症(SSI)を発症した。B-SIR ツールの AUC は 0.686(95%信頼区間[CI]0.649 ~ 0.723)で、以前の開発研究における値と同程度(AUC = 0.682、95%CI 0.652 ~ 0.713)であった。この値は、BHIS の AUC(0.610、95%CI 0.045 ~ 0.109、P<0.001)および ACRI の AUC(0.614、95%CI 0.041 ~ 0.103、P<0.001)より有意に高かった。補正因子を使用して再較正を行った後にB-SIR ツールでは正確なリスク予測を行った(Hosmer-Lemeshow 検定、 P = 0.423)。多重代入法の結果(AUC = 0.676、95%CI 0.639 ~ 0.712)は、開発データと類似しており、ACRI および BHIS よりも高かった。
結論
外部検証により、B-SIR ツールによる心臓手術後の SSI に関する予測能は ACRI および BHIS よりも優れていることが示された。この結果から、B-SIR ツールは日常診療で有用である可能性を示唆している。
監訳者コメント:
この論文はBarts 外科感染リスク(B-SIR)ツールを 2,500 例の前向きに収集され後方視的研究で、ACRI や BHIS よりも優れた予測性能を持ち、臨床実践での使用に適している可能性があるという結果であった。本研究では HbA1C データが含まれておらず術中術後の管理にも影響する可能性が否定できないこと、退院後の SSI データが不十分であることなどが限界であり、現在世界的に広く使用されているわけではないが臨床で有用性が期待される。一方日本では、心臓手術後の手術部位感染(SSI)リスクを評価するためのツールとして、JapanSCORE があり、日本成人心臓血管外科手術データベース(JACVSD)に基づき、30 日以内の手術死亡率や主要合併症の発生リスクを予測するものであるが SSI のリスク予測に特化したツールではない。今後は本ツールも含め日本でも心臓手術後の手術部位感染(SSI)リスクを予測可能なツールの検証が期待される。
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