日本の医療従事者における感染予防知識の状態:テキストマイニングを用いた質問票調査分析
State of infection prevention knowledge among healthcare professionals in Japan: a questionnaire survey analysis using text mining M. Tobise*, A. Nyamadzawo, S. Saito *Chiba University, Japan Journal of Hospital Infection (2024) 154, 29-36
背景
医療関連感染症(HAI)は重要な問題であり、医療施設における継続的な取り組みが求められる。医療従事者は、感染予防に関する教育プログラムを強化することが期待される。日本では HAI 発生率は低下しているが、医療従事者における感染予防に関する知識の実際の状態は、まだ明らかになっていない。
目的
日本の医療従事者における実際の感染予防知識を明らかにする。
方法
本研究の参加者は、医療施設に勤務する、患者と頻繁な接触がある医療従事者 1,158 名であった(医師 283 名、看護師 591 名、理学療法士 115 名、放射線科医 97 名、医療技術者 72 名)。医療従事者は、オンラインの自記式質問票により、自身が意識的に遵守している感染予防行動を記述した。テキストマイニングによりデータを解析した。医療従事者の感染予防知識を明らかにするために、回答からカテゴリーを抽出した。
結果
半数を超える参加者(64.9%)が 40 歳を超えており、48.1%が 20 年を超える臨床経験を有した。参加者の過半数が看護師であり(51.0%)、43.9%が学士号を有し、56.6%が女性であった。感染予防知識に関する以下の 7 つのカテゴリーが抽出された。「手指衛生および含嗽の実行」、「個人保護具の着用」、「免疫力の強化」、「自身および患者の感染からの保護」、「清潔区域と非清潔区域の識別」、「日常生活動作において他者への伝播を阻止するための行動」および「他者との距離の維持」。
結論
これらの結果から、日本の医療環境で働く医療従事者のほとんどが、標準予防策を優先し、遵守していることが示唆され、HAI の発生率が低いことは、医療従事者における「手洗いとうがい」の知識の理解に影響を受けている可能性がある。
監訳者コメント:
本論文は、日本の医療従事者を対象に感染予防知識を調査し、テキストマイニングを用いて分析した研究である。「手洗い・うがい」が感染予防行動の一部として挙げられている点は、日本特有の文化的背景を反映しており興味深い。また、テキストマイニングによる自由記述データの分析は、感染予防知識の全体像を明らかにする上で効果的な手法である。日本の院内感染率の低さに寄与する行動様式が示された一方、アンケート形式ゆえのバイアスの可能性がリミテーションとして挙げられる。日本の感染対策の独自性を考察する上で、価値の高い研究である。
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