病院の排水管中の総生菌数を減少させるための過酢酸(PAA)消毒液の使用★
Use of a peracetic acid (PAA) disinfectant to reduce total viable bacteria count in hospital wastewater drains K. Sharrocks*, D. Prossomariti, L.B. Snell, M. Dibbens, A. Alcolea-Medina, L. Gargee, J. Marashi, J.D. Edgeworth, J.A. Otter, S.D. Goldenberg *Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust, Cambridge, UK Journal of Hospital Infection (2024) 151, 79-83
病院の水系の末梢は、臨床領域の患者や職員と、多数の点で、接触している。これは、大部分が、シンクやシャワーであり、感染制御にとって重大なリスクとなっている。特に、排水管は、患者に伝播する可能性のある病原体のリザーバとして働く。バイオフィルムと細菌量を減らす可能性のある方法として多数の戦略が調査されてきた。例えば、殺菌性化学物質の定期的な使用である。そのような製品の有効性を評価する伝統的な方法は、培養に基づく微生物学的技術に頼っていて、通常は、限られた範囲の重要な病原体を標的としている。我々は、7 本の臨床で手を洗う洗面台の排水管に対する過酢酸含有排水管消毒製品の有効性を評価した。6 週間に亘って毎日検体を採取した(排水管消毒製品の使用前、使用中、使用後)。培養に頼らない総生菌数の迅速推定を使い、有効性を評価した。ロングリードのメタゲノムシークエンシングを適用し、排水管全体の微生物叢を調べた。これによって、排水管消毒製品使用後の分類学的変化を記録することができた。すべての検体がひどく汚染されていることが分かったが、排水管消毒製品は、総生菌数を、推定値の平均で 4,228 cfu/mL から 2,874 cfu/mL にまで減少させた。この減少は、製品の中止後 2 週間維持された。ロングリードのメタゲノムシークエンシングでは、微生物叢がグラム陰性微生物優勢であることが示され、排水管消毒液の使用の前と後の検体で、分類学的な変化がいくらかあった。病院の排水管のバイオバーデンを約 1/3 減少させたことの病院感染に対する影響は、それに関連する細菌構成の変化とともに、今後の研究で評価する必要がある。
監訳者コメント :
排水管の細菌叢のメタゲノム解析が実施され、過酢酸投与前後での細菌種の変化を評価しているのがこの論文の特徴である、全ゲノム解析により検出された細菌種の薬剤耐性については排出ポンプによる耐性遺伝子が検出されたが、種々のβラクタマーゼ遺伝子は検出されなかった。病院施設の水廻り環境の改善は重要で特に手洗いシンク等の排水管には薬剤耐性グラム陰性菌が定着しリザーバとなることは周知の事実である。消毒効果は一般的に乗数の変化で表現されるため、本論文での排水管の細菌数を過酢酸により 1/3 に減らしたことがどれだけ感染予防対策として効果があるかは今後の評価を待ちたい。なお、報告された細菌数は ATP による生物発光を利用してコロニー数を推定する方法である(MicroSnap、英国 Hygiena 社の製品)。
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