十二指腸内視鏡関連感染を検出するための調査戦略:後向き観察研究★★
A search strategy for detecting duodenoscope-associated infections: a retrospective observational study K. van der Ploeg*, C.H.W. Klaassen, M.C. Vos, J.A. Severin, B.C.G.C. Mason-Slingerland, M.J. Bruno *Erasmus MC University Medical Centre, The Netherlands Journal of Hospital Infection (2024) 147, 56-62
背景
十二指腸内視鏡関連感染は、汚染された十二指腸内視鏡の使用に起因する外因性の感染である。十二指腸内視鏡関連感染のアウトブレイクの多くは多剤耐性病原体(MDRO)が関与していたが、非 MDRO が関与するアウトブレイクが起こる可能性も高い。これらの感染は培養前に解決することが多いことから、あるいは原因となる株を十二指腸内視鏡の株と比較するために保管することがないことから、検出は困難となる。
目的
3 次医療施設の 7 年にわたる期間における十二指腸内視鏡関連感染を特定し解析すること。
方法
これは後向き観察研究であった。2015 年 3 月から 2022 年 9 月の間に、胃腸管フローラに関して陽性であった十二指腸内視鏡培養を、十二指腸内視鏡の使用のデータと対にすることで、汚染された十二指腸内視鏡に曝露された患者を特定した。解析は、十二指腸内視鏡培養が陽性になったために治療された患者と、培養が陰性から陽性になる間に治療された患者を対象とした。患者識別番号を臨床培養データベースと照合することで、処置から 1 年以内に一致する微生物による感染を起こした患者を特定した。十二指腸内視鏡培養と患者の培養が種のレベルで一致したときに「対」とした。対は、アンチバイオグラムを比較することで更に解析し、また遺伝的関連性を明らかにするために全ゲノムシークエンシング(WGS)による解析も行なった。
結果
68 対が特定された。これらのうち 21 対のアンチバイオグラムが一致したので、WGS を行ない、2 つの対が遺伝的に密接に関連していたことを明らかにし、それらを十二指腸内視鏡関連感染とみなした。感染の発生は、遅ければ処置から 2 か月後に起こった。どちらの病原体も非 MDRO であった。
結論
この研究は、非 MDRO によって引き起こされる十二指腸内視鏡関連感染に対する極めて重要な理解を提供している。また、日常診療で十二指腸内視鏡関連感染を認識することの難しさもはっきりと示している。重要なのは、記述した十二指腸内視鏡関連感染で症状の発現が遅れていたことは十二指腸内視鏡関連感染のリスクが低く見積もられている傾向を示唆していることである。
監訳者コメント:
十二指腸内視鏡は ERCP 用の内視鏡であり、2015 年米国でカルバペネム耐性腸内細菌科細菌による感染事例が報告され、内視鏡の洗浄消毒に関する安全情報が FDA より発出された。これに呼応して厚労省も医薬品・医療機等安全情報を 2015 年 4 月に出している。内視鏡先端部の鉗子起上装置の構造が複雑で洗浄消毒が困難であることが一因とされたが、日本の十二指腸内視鏡は先端部にキャップがあり、取り外し可能であり、海外のものよりは洗浄しやすい構造にはなっている。本論文で、非耐性菌による感染事例が頻度は低いものの実際に内視鏡からの感染が WGS により確認されていることに注視しなければならない。十二指腸内視鏡を介した感染を発生させないために、洗浄員の人材確保、洗浄消毒のための十分な台数の機器、内視鏡保管のための通気可能な保管庫の設置など、内視鏡洗浄消毒におけるさらなる環境整備の充実が望まれる 。
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