気管内チューブのバイオフィルムと抗菌薬耐性の細菌学:システマティックレビュー

2024.05.31

Bacteriology of endotracheal tube biofilms and antibiotic resistance: a systematic review

S.K. Mishra*, S. Baidya, A. Bhattarai, S. Shrestha, S. Homagain, B. Rayamajhee, A. Hui, M. Willcox
*University of New South Wales, Australia

Journal of Hospital Infection (2024) 147, 146-157




細菌は通常、表面に付着し、高分子化合物を生成して付着した細胞を包み、バイオフィルムと呼ばれる群集を形成する。これらのバイオフィルム内では、細菌は抗菌薬または消毒薬に対して何倍も強い耐性を示すと考えられる。本システマティックレビューでは、気管内チューブから分離された細菌のバイオフィルム形成の割合および関連する微生物プロファイル、さらに抗菌薬耐性とのその関連を検討する。PubMed、EmbaseおよびGoogle Scholarのデータベースにおいて、2000 年 1 月 1 日から 2022 年 12 月 31 日までに公表された関連論文を包括的に検索した。関連論文を Mendeley Desktop 1.19.8 にエクスポートし、タイトルとアブストラクトによりスクリーニングした後、本研究の適格基準に基づきフルテキストをスクリーニングした。研究の質の評価は、横断的研究向けにカスタマイズした Newcastle-Ottawa Scale(NOS)を用いて行った。さらに、気管内チューブ検体から分離されたバイオフィルム形成菌における抗菌薬耐性率を調査した。981 本の気管内チューブを対象とする 20 件の研究が適格基準を満たした。シュードモナス(Pseudomonas)属菌およびアシネトバクター(Acinetobacter)属菌が、バイオフィルム形成菌における主な分離菌であった。これらのバイオフィルムは、一般的に用いられる抗菌薬に対する強い耐性をもたらした。シュードモナス属菌ではフルオロキノロン系に対する耐性率が最も高かった一方、ピペラシリン/タゾバクタムに対する耐性が最も低かった。アシネトバクター属菌にも同様の感受性の傾向が認められ、フルオロキノロン系、第三世代セファロスポリン系およびカルバペネム系に対する耐性率がきわめて高かった。結論として、気管内チューブは、様々なレベルの抗菌薬耐性を示すバイオフィルム形成菌の定着と関連した。バイオフィルムは、気管内チューブにおける困難な感染の発生を促進する可能性があり、適切なプロトコールと抗菌薬適正使用支援により管理する必要がある。研究の焦点をバイオフィルム関連感染症の詳細な検討に移し、検出および管理を改善すべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

気管内チューブは人体にとっていわゆる「異物」に相当し、そこに付着する細菌やバイオフィルムによって、「普通では起こさない」呼吸器感染症を起こす。その一つが黄色ブドウ球菌による肺炎である。またバイオフィルムは本論文が示すように、「薬剤耐性」の原因にもなりうる。「バイオフィルム」というと実臨床ではまだまだ概念的な存在ではあるが、それが実臨床に与える影響、そして治療の対象となりうる可能性についてさらに研究が進むことが期待される 。

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