化学療法を受けている急性骨髄性白血病患者における侵襲性真菌感染に対する抗真菌薬の予防投与の費用対効果の分析:中所得国からの研究★

2024.03.31

The cost–utility analysis of antifungal prophylaxis for invasive fungal infections in acute myeloid leukaemia patients receiving chemotherapy: a study from a middle-income country


T. Pungprasert*, D. Dhirachaikulpanich, W. Phutthasakda, N. Tantai, S. Maneeon, V. Nganthavee, K. Atipas, S. Tanpong, S. Krithin, S. Tanglitanon, W. Jutidamrongphan, M. Chayakulkeeree, V. Srinonprasert, P. Phikulsod
*Mahidol University, Thailand

Journal of Hospital Infection (2024) 145, 118-128



背景

侵襲性真菌感染は、急性骨髄性白血病(AML)の治療中の発病と死亡の一因となっている。予防法なしでは、タイにおける AML の治療中の侵襲性真菌感染の発生率は高く、その結果、死亡率は高くなり、入院期間は長くなる。

目的

AML の治療中における抗真菌療法による予防の費用対効果を評価すること。

方法

我々は、タイで使用できる抗真菌療法の費用対効果を評価した。ポサコナゾール(溶液)、イトラコナゾール(溶液とカプセル)、ボリコナゾールである。決定木とマルコフモデルから成るハイブリッドモデルを作り上げた。

結果

抗真菌療法により侵襲性真菌感染全体を予防するための費用は、どの抗真菌療法でも、予防を行なわない群を治療する費用よりも安く、患者 1 例当たり 808 ~ 1,507 USD を節約する結果となった。ボリコナゾールの予防投与による予防は、最も長い質調整生存年(QALY = 3.51、増分QALY=0.23)を示し、続いて、ポサコナゾール(QALY = 3.46、増分QALY = 0.18)、イトラコナゾール溶液(QALY = 3.45、増分QALY = 0.17)であった。イトラコナゾールカプセルは、このモデルで QALY を減少させた。侵襲性アスペルギルス症の予防については、ポサコナゾールとボリコナゾールの両方が、予防法なしと比べて、QALY および生存年の延長を改善する結果となった。しかし、ポサコナゾールの予防投与のみが、費用を節約する選択肢であった(患者 1 例当たり 976 USD)。

結論

ポサコナゾール、イトラコナゾール溶液、ボリコナゾールはどれもが、侵襲性真菌感染全体の予防については、予防法なしと比べて、費用の節約となった。ボリコナゾールが最も費用効果の高い選択肢であった。ポサコナゾールとボリコナゾールは、どちらも侵襲性アスペルギルス症の予防について費用効果が高かったが、ポサコナゾールのみが、費用を節約した。AML の強化治療中における抗真菌療法による予防法の使用についての払い戻し方針の変更が、患者に対する臨床上の利益と、医療システムに対するかなりの経済的な利益の両方を提供する可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

侵襲性真菌感染症は血液悪性腫瘍患者の化学療法中に発生し、患者の生命予後を左右する感染症であり、これを予防することで生存率の改善が期待できる。侵襲性真菌感染症の診断は細菌感染症に較べ難しく、真菌検出のための微生物検査や血清学的検査、さらに CT や MRI などの画像検査を組み合わせて判断するため費用がかかること、診断後も長期にわたる治療が必要であるため、その費用対効果は中所得国では大きな関心事である。本論文では中所得国といえども予防投与が効果的であると結論づけている。また、タイでは酵母様真菌よりも糸状真菌による侵襲性感染が 9 割以上を占めていることから、糸状菌をカバーする抗真菌薬が予防的に必要であろう。

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