多剤耐性病原菌の保菌について医学生をスクリーニングすべきかせざるべきか?
To screen or not to screen medical students for carriage of multidrug-resistant pathogens? E. Smelikova*, P. Drevinek, O. Nyc, M. Brajerova, J. Tkadlec, M. Krutova *Charles University and Motol University Hospital, Czech Republic Journal of Hospital Infection (2023) 140, 15-23
背景
医学生は患者と接触し、病院環境に曝露されているにもかかわらず、医学生の多剤耐性(MDR)病原菌の保菌については広範に研究されていない。
目的
医学生における MDR 病原菌の腸管内および鼻腔内保菌と、その生活習慣および人口統計学データとの関連を検討した。
方法
2021 年に、第 1 学年および最終学年の医学生に研究への参加を呼び掛けた。直腸スワブ 2検体を用いて、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生性のコリスチン、チゲサイクリンまたはカルバペネム耐性グラム陰性菌およびバンコマイシン耐性腸球菌を検出した。鼻腔内スワブを用いて黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)培養を行った。黄色ブドウ球菌分離株は spa タイピングによって特性を解析した。グラム陰性耐性分離株およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)において、全ゲノムショートリードおよび/またはロングリードシークエンシングを行った。
結果
学生 178 例中 80 例(44.9%)で黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌が認められ、分離株 2 株がMRSA であった。直腸スワブでは、ESBL 産生株 7 株が検出された。学生 16 例がコリスチン耐性菌を保菌しており、分離株 3株(1.7%)が mcr-1 遺伝子を有した。定量的ポリメラーゼ連鎖反応により mcr-9(10.7%、19/178 例)および mcr-10(2.2%、4/178 例)遺伝子が検出されたが、コリスチン感受性の mcr-10 陽性分離株 2 株のみが培養された。黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌には、抗菌薬およびプロバイオティクス摂取との負の相関が認められた。黄色ブドウ球菌およびコリスチン耐性菌は、家畜と接触のある学生においてより高頻度に検出された。
結論
医学生は薬剤(多剤)耐性菌を保菌している可能性があり、第 1 学年の学生と最終学年の学生との間に差はない。学生はセルフスクリーニングに参加することで、耐性株の保菌の可能性と、不十分な手指衛生によるそれらの伝播の可能性に関する認識が高まる。
監訳者コメント:
本論文はあくまで医学生の多剤耐性病原菌の保菌率について述べたものであり、「スクリーニングすべきかせざるべきか」を述べたものではないことに注意が必要である。薬剤耐性菌の保菌率や抗菌薬の使用状況は国毎に大きく異なるため、このようなデータは各国毎で評価し、その意義や除菌などの対策についてはさらに掘り下げた評価が必要であろう。
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