10 年間にわたる病原体全ゲノムシークエンシングからの感染予防・制御に関する洞察★★

2022.04.20

Infection prevention and control insights from a decade of pathogen whole-genome sequencing

D.W. Eyre*
*University of Oxford, UK

Journal of Hospital Infection (2022) 122, 180-186



病原体全ゲノムシークエンシングは、感染症の伝播および疫学を理解するための重要なツールとなっている。これにより、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など重大な医療関連病原体の感染源および伝播経路について理解が深まっている。感染または保菌が判明している入院患者からの伝播は、以前考えられていたよりも症例数が少ないことが明白であり、市中からの医療関連病原体の複数の伝播が、より重大な影響をもたらしている可能性がある。この知見は感染予防・制御における重要な示唆を与えている。シークエンシングにより病原性菌種内の異質性が確認されており、一部のサブタイプは他の菌種よりも院内で伝播し存続する頻度が高かった。さらに、シークエンシングにより、食品由来病原体、カンジダ・オーリス(Candida auris)、マイコバクテリウム・キマイラ(Mycobacterium chimera)の医療関連アウトブレイクにおける感染源、ならびに感染症の伝播やこれまでの感染源に関与した個人または集団も特定される。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス‐2(SARS-CoV-2)シークエンシングは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時の変異株追跡の中核を成しており、予防活動にもかかわらず患者‐医療従事者間で発生した感染症の伝播について理解するのに有用であった。メタゲノムシークエンシングは、感染症および抗菌薬耐性の培養非依存的診断のための新たな技術である。今後、シークエンシングは利用しやすくなり、広く利用できる可能性がある。病院におけるリアルタイムでの使用により、感染予防・制御チームは感染症の伝播を特定し、介入の標的とすることができるであろう。また、サーベイランスや感染制御のベンチマークを提供すると考えられる。伝播に関与した個人を特定するシークエンシングにより生じる倫理的問題および生活状態の問題への配慮が重要である。病原体全ゲノムシークエンシングによって、医療関連感染症の疫学について理解するとともに、この感染症をより適切に制御・予防するための驚くべき新たな洞察が得られた。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

病原体全ゲノムシークエンシングにより、特定が困難であったカンジダ・オーリス(Candida auris)、マイコバクテリウム・キマイラ(Mycobacterium chimera)についても短時間で正確に特定がしやすくなった。メタゲノム解析は検体中にどのような病原体遺伝子が潜んでいるのかについて、多くの手間を省く革新的技術である。
※メタゲノム解析(metagenomic analysis):メタゲノム解析の「メタ」とは、「超越」を意味するメタ(meta-)に「ゲノム」を融合した造語。微生物群集を培養することなくそのままゲノムを精製して直接、シークエンスすることで網羅的に解析することを『メタゲノム解析』と言う。

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