病院および長期ケア施設内の細菌・ウイルス感染症の低減をはかるための病院および施設内表面の清掃および消毒:システマティックレビュー

2022.04.20

Cleaning and disinfecting surfaces in hospitals and long-term care facilities for reducing hospital- and facility-acquired bacterial and viral infections: a systematic review

R.E. Thomas*, B.C. Thomas, J. Conly, D. Lorenzetti
*University of Calgary, Canada

Journal of Hospital Infection (2022) 122, 9-26



背景

病院や長期ケア施設(LTCF)でとくに懸念されている多剤耐性病原体(MDRO)には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus)属、多剤耐性アシネトバクター(Acinetobacter)属、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌などがある。呼吸器系ウイルスはインフルエンザ、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス‐2(SARS-CoV-2)などである。

 

目的

病院および LTCF における表面の清掃と消毒の有効性を評価すること。

 

方法

CINAHL、Cochrane CENTRAL Register of Controlled Trials、Embase、Medline、Scopus を用いて、言語制限を設けず、無作為化比較試験(RCT)、清掃、消毒、病院、LTCF について発端から 2021 年 6 月 28 日まで検索した。著者 2 名が独立して抄録とタイトルを評価し、データを抽出した。

 

結果

病院および LTCF でのクラスター無作為化比較試験(RCT)14 報のうち 10 報における介入は、4 種類の MDRO 感染症および/または医療関連感染症(HAI)の患者の低減に焦点が置かれた。4 報のクラスター RCT の患者では、漂白剤、4 級アンモニウム洗浄剤、紫外線照射、蒸気化過酸化水素、銅により処理した表面や布地などの清掃と消毒対策により、MDRO および/または HAI の発生率が有意に低下した。MRSA 発生率の低減に焦点を置いた 3 報のクラスター RCT のうち 1 報で有意な結果が得られたが、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)に関する 1 報では有意な結果が得られなかった。集団、方法、アウトカム、データ報告の不均一性によりメタアナリシスはできなかった。バイアスリスクの全体的な評価は低かったが、割り付けの隠蔽化は高く、GRADE 評価のリスクは低かった。バイオフィルムについて評価した研究はなかった。

 

結論

クラスター RCT の 10 報では複数種の MDRO および/または HAI の低減に焦点が置かれ、有意な低減が 4 報で認められた。クラスター RCT の 3 報では患者の MRSA 保菌率のみが報告され(1 報では有意な低減)、1 報では C. difficile に焦点が置かれた(有意差なし)。今後のクラスター RCT には、標準的な主要・副次評価項目としてバイオフィルムの洗浄/消毒による綿密な介入を含む必要がある。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

病院の環境消毒の効果についてのシステマティックレビュー。人為的な環境清掃・消毒は、清掃員のインテリジェンスに大きく依存する。適切な技術を持った人員が適切な清掃用具や消毒剤を用いて定期的に環境清掃・消毒を行えば効果的であるが、不適切な対応を行うとデータ的には有意差が得られないという矛盾が生ずる。

 

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